おはなし掲示板

「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」

日時: 2016/10/10 21:57
名前: 敗北者

【概要】
ポケガイ民が理想の力(オリジナルも既存作品からのも)と容姿を手に入れ、二次元世界に生まれ変わる。力を使って戦いを繰り広げたり、二次元ヒロインと出会って生き抜いていく物語である。

【あらすじ】
ポケガイ住民のとある青年は、ある日呆気なくその短い生涯を閉じる。次に彼が目を覚ますと、そこは憧れの二次元世界だった。理想の力と容姿を手に入れた青年は様々な出会いと戦いを繰り返して生き抜いていく。

ロック/修正

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Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.1 )

日時: 2016/10/10 21:58
名前: ああ

「さて今日もアニメ見たし遅いから寝るンゴ。」

この22歳の青年、日課の深夜アニメの視聴を終えていつも通り眠りにつこうとしていた。

ガチャッ

「!?」

電気を消そうとした刹那、深夜だというのに部屋のドアを開ける音がした。青年は身構える。

「アンタ、職探しもしないで毎日毎日アニメとネットばかり…いい加減にしなさいよぉ!アンタが居るからアタシの人生滅茶苦茶よぉ!もういやあああ!」

母親が怒気を強めた荒々しい声で絶叫しこちらへ向かってくる。その手に握り締められたのは包丁だった。

母親は有無を言わさず包丁を青年の胸部に突き立て、刃は青年を貫いた。

「…。」

心臓を貫かれた青年は即死していた。辺りには青年が咲かせた深紅の花が広がり、花は池となって部屋中を地獄の色に染め上げた。

青年の短い生涯は呆気なく幕を閉じたのである。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.2 )

日時: 2016/10/10 21:59
名前: ああ

青年は目を覚ました。

「あれ?確かワイは母親に刺されて…」

母親に刺された筈の胸の辺りを確認するも傷は無い。

「ワイは死んだ…死んだ筈なんや…此処は何処や?」

目を見回す。煉瓦造りの建造物が並び、人が大勢往来し、多くの商人の周りに人だかりを作ったりと賑わっている。
東に目を向ける。西洋風の城が見える。巨大な、屋根が青い城である。天守と見られる建造物には旗が立っている。見たこともない国旗である。

「な、なんなんや此処は…此処があの世なんか?」

辺りをキョロキョロ見回していると周りの人間が徐々に目線を此方に向けていることに気付く。

周りの人間はどうやら…日本人では無いらしい。髪の色や瞳の色などがバラバラだ。

周りに目線を向けられて青年は自分の格好の異様さに気付く。

「ファッ!?」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.3 )

日時: 2016/10/10 22:00
名前: ああ

左目に眼帯、表が黒で裏が赤のマント、黒尽くめの装束。伸びた長い前髪。

それに腰に刀を差している。日本刀か?
自分の格好を確認した時、青年は静かに口を開いた。

「いい歳してなんだこの格好は…それとなんj民口調はやめた方が良さそうだな。なんjなんて無い世界のようだ。」

周りの注目を浴びている、それも蔑みの目である。

「有象無象共、俺は見世物ではない。失せろ!」

語尾を強調し周りの人々の解散を促し、腰に差している刀を鯉口三寸抜いて威圧する。

人々は青年から目を逸らしてその場から我先にと去っていった。

「これ、顔は変わっているのか?鏡があるところをまずは探すか。」

青年の目に止まったのは紫色のフードを被り、水晶に手を翳している占い師だった。

青年は無言で占い師に近づいていく。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.4 )

日時: 2016/10/10 22:00
名前: ああ

「御用ですか?」

占い師は青年を見るなりゆっくりと口を開く。声を聴く限り女だ。

「水晶を貸してくれ。占いは要らん。」

青年は返事も聞かずに水晶玉を取り上げ、顔の高さまで持ち上げる、

「なんだこの顔は…」

生前の不恰好な顔面とは似ても似つかない。それにすぐに分かる。生前より若くなっているようだ。黒い眼帯が何より目立つ。

「どうやら俺は生まれ変わったらしい。おい占い師。」

「はい。貴方の運勢を占いますか?」

「占いはいい。質問だ。此処は何処だ?」

「ご存知無いのですか?見たところ貴方様は奇抜な格好なのでただものではないと思いましたが…」

「質問に答えてくれ。」

質問に対する答えがすぐに返ってこないことに少年は苛立つ。

「此処はガルガイド王国の王都・ガルドリアです。」

「聞いたこともないな。だがお前の顔を見れば嘘は言っていない。邪魔したな。」

少年は呆気に取られた占い師を尻目にその場を後にした。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.5 )

日時: 2016/10/10 22:01
名前: ああ

「だが困った。生まれ変わったとしても食糧が無くてはまた死ぬことになる。」

少年が途方に暮れて下を向き王都の街を歩いていると前から殺気を帯びた気配を感じる。

「誰だ」

少年は立ち止まり前を見据えると、そこにはブロンドヘアーをポニーテールに束ね、銀色の鎧に身を包んだ女が剣の切っ先を此方に向けていた。

「住民から奇抜な黒尽くめの格好をした不審者が居るとの通報を受けました。まずは身分証を見せなさい。」

女が険しい表情でにじり寄ってくる。

「そんなものは無い。俺は此処に来たばかりだ。持っているのはこの刀だけだ。」

少年は刀に手をかける。

「ということは貴方は密入国者ですね。国法により貴方を逮捕します。大人しく投降しなさい。」

「話を聞いてくれそうにないな。是非も無い。」

少年は抜刀する。

「止むを得ませんね。ですが貴方がたは手出し無用です。」

女は取り巻きの介入を制止する。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.6 )

日時: 2016/10/10 22:02
名前: ああ

女が切っ先を此方に向けたまま踏み込んでくる。

少年はそれを咄嗟に右に避ける。

(そういえば顔も年齢も変わっているが、俺に特別な力はあるのか?)

少年は戦闘状態に入るなり、疑問を頭に浮かべた。それに生前は運動神経は最悪で碌に運動もしなかった筈なのに女の素早く鋭い剣を避け続けられている。

(まずは適当に試してみるか)

少年は後ろに跳んで女と距離を取ると、刀を振りかぶる。

「破道の七十八 斬華輪」

振り上げた刀に力を込め、それを振り下ろすと三日月型の斬撃となって女目掛けて飛んでいく。

「やはり能力者でしたか。ですがこの程度…」

女は剣を前に突き出し魔法陣を出現させて斬撃を防ごうとする。だが魔法陣は容易く破れて女は斬撃を浴びる。

ニヤリと不敵な笑みを浮かべた少年は何かを確信した。

(俺には力がある…!それを試す好機が訪れたのだ…!)

「どうやら思った通り俺には特別な力が宿ったようだな。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.7 )

日時: 2016/10/10 22:02
名前: ああ

斬撃で土煙が辺りを舞うがそこから魔法陣が発生し、巨大な魔力の塊が光線となって少年に向かってきた。

「縛道の八十一 断空」

少年は目の前に大きく透明な障壁を作り出してそれを防ぐ。土煙が晴れ、破損した鎧の隙間から血を流している女が現れた。息を切らし、傷口を手で抑えている。

「この私としたところが…敵の力を見誤りました」

「俺は自分の力をもっと試したいんだが…勇んで挑みかかってくる割には弱いな。これで終わりだ小娘。」

男は左手を開いて力を込める。

「破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲」

少年の掌から極太の、稲妻を帯びた青い霊圧が一直線に放出された。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.8 )

日時: 2016/10/10 22:02
名前: ああ

「呆気なかったな。」

少年が鬼道を放った正面を見据えると捨て台詞を吐いて残りの取り巻きも始末しようと、更なる鬼道を放とうとした時である。

「!」

背後に殺気を感じた。女が背後から黄色い魔力を帯びた剣を少年の首筋に斬りつけてきたのである。

「とった!」

女が声を上げた瞬間、少年の首筋の辺りから虹色に縁取られた白い霊気の壁が現れる。

「そんな…どうして!」

「動きは早いが、狙った場所が良くない。首の後ろは生物の最大の死角だ。そんなところに何の防御も施さないと思っているのか?」

白い壁は細長い六角形となって剣を受け止めている。

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光以てこれを六つに分かつ 縛道の六十一 六杖光牢」

少年が鬼道を放つと、六つの光が女を囲んで動きを封じる。

「動けない…そんな馬鹿な…」

「喧嘩を売る相手を間違えたようだな。とどめだ。」

しかし少年は女にとどめを刺さなかった。いや、刺せなかった。少年の頭上から何かが落ちてくる。

「団長ー!!!」

狼の姿をした獣人である。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.9 )

日時: 2016/10/10 22:03
名前: ああ

獣人は手に冷気を込めて真下の少年目掛けて拳を振り下ろす。

「エルエスクード!」

少年は頭上に透明な障壁を展開させて防ごうとするも破られる。

「チッ!」

拳を刀で受け止め、その衝撃は周囲を巻き込んだ。

「傷は深いけど…致命傷ではないみたい。腹部に受けたのが運が良かったわ。よく助けに来てくれたわね。」

「団長の危機とあらばどんな時でも駆けつけますよ!それが我ら騎士団の役目です!」

少年は獣人が話している隙に後ろに下がり距離を取る。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.10 )

日時: 2016/10/10 22:04
名前: ああ

「新手か。」

「お前よくも団長を!何者だ!」

狼の獣人が短剣を抜いて切っ先を少年に向ける。

「それは俺が聞きたいくらいだ。その女にはいきなり密入国者だと言われ絡まれた。俺は火の粉を払おうとしただけだ。」

「とぼけるな!自分が誰かくらい、名前くらい分かるだろ!」

「この世界に来たばかりなんでな。知ったことではない。」

「いい加減にしろこの野郎!」

獣人が凄まじい冷気の塊を少年に放つ。

「縛道の八十一 断空」

だが、断空は冷気の塊を受けて破壊された。
少年は目を見開いて攻撃を受けてしまった。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.11 )

日時: 2016/10/10 22:04
名前: ああ

「クソッ!調子に乗るなよ獣風情が!」

「来い!斬月!」

少年が叫ぶと刀は出刃包丁のような形に姿を変えた。

「月牙天衝!」

斬月を振り下ろし、青い霊圧を放出しそれが斬撃となって獣人を直撃するが、獣人は腕に冷気を込めて斬撃を振り払った。

「団長を傷つける奴は俺が許さない!」

獣人は魔法陣を頭上に出現させる。

「アイシクルブリザード!」

冷気の魔力を空へと打ち上げ、それが少年へと降り注ぐ。

「範囲が広い!広いが攻撃は俺のみを狙っている…!」

「月牙天衝!」

斬撃を放つが防ぎきれず、冷気と無数の氷の塊が少年を襲った。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.12 )

日時: 2016/10/10 22:05
名前: ああ

まともに攻撃を受けた少年は全身から血を流し、斬月を杖代わりにしてよろめきながら立ち上がった。

「そこの女と違ってお前は出来るようだな…。面白い!その調子で俺を楽しませてみろ!」

少年は顔に手を翳すと、複雑な模様が浮かび上がった仮面が現れた。

「食らえ」

少年の掌から青い光線が発せられる。

「速い!」

獣人は避ける間もなく一撃を受けた。ダメージは大きく、獣人も血を流している。

「ならばこれならどうだ。黒虚閃(セロ・オスキュラス)!」

青が混じった黒い光線を放つ。

獣人はそれを魔力を込め、冷気を帯びた爪で切り裂く。そのまま斬撃となり少年に飛んでいくが、少年は更に虚閃(セロ)を放って掻き消す。

少年の姿が獣人の視界から消える。瞬間移動で獣人の背後に回った少年は渾身の力を込める。

「王虚の閃光(グランレイ・セロ)!」

だが獣人の反応も早く、素早く空中に跳んで避ける。
少年もそれを追って空中に瞬間移動する。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.13 )

日時: 2016/10/10 22:06
名前: ああ

「お前、さっき団長を侮辱したな。絶対に許さねえ。」

怒りに満ちた獣人の目が少年を射抜く。

「弱い奴を弱いと言ったまでだ。この俺に刃向かうのであれば老若男女の別は無い。始末するまでだ。」

「そんなことさせるか!団長は誰よりも凛々しくて誇り高い、ガルガイド王国騎士団の団長だ!そして団長は強い!お前なんかに本気を出すわけ無いだろ!」

「俺も本気など欠片も出していない。小娘1人を屠るのにそこまでする必要は無いからな。」

少年は斬月を前に突き出す。

「どうやらお前も完全に本気ではないようだが、あの女よりずっと強い。俺もここで死ぬわけにいかないんでな。少し力を出すぞ。」

少年が斬月に霊圧を込める。

「卍解!」

黒い霊圧が少年を覆い、斬月が姿を変える。

「天鎖斬月」

黒い霊圧から現れた斬月は日本刀大の大きさになり、刀身が黒く輝いて赤黒い霊圧を纏っている。

「なら俺もだ!」

冷たい水色の魔力が獣人を覆って姿を変える。

「ほう…」

狼の獣人は龍へと進化し、少年を睨みながら雄叫びを上げる。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.14 )

日時: 2016/10/10 22:06
名前: ああ

「月牙天衝!」

天鎖斬月から赤黒い斬撃が放たれる。声ともとれぬ悲鳴を上げてドラゴンが仰け反るがすぐに体勢を立て直す。
ドラゴンの口から巨大な魔法陣が現れて魔力を集中させる。巨大な冷気の魔力は最大になって放出された。

「月牙と黒虚閃の合わせ技だ。食らうがいい。」

ドス黒い霊圧を天鎖斬月の切っ先に溜めて放出する。双方の力が激突して大爆発を起こし、王都の空は水色の冷気とドス黒い霊圧に覆われた。

「間髪入れずに行くぞ。黒虚閃!」

今までにない規模の大きさの黒虚閃がドラゴンを直撃し、ドラゴンは悲鳴を上げて地に落ちていく。
だがドラゴンは死に物狂いで口から先程よりも巨大な冷気の魔力を少年に放つ。

「月牙天衝!」

しかし斬撃は冷気に押される。少年は防ぎ切れずにまともに攻撃を浴びた。

「凍らされてはかなわん!これで消えてもらう!」

「雷霆の槍(ランサデル・レランパーゴ)」

緑光の槍を作り出すと、それを振り上げて地に落ちていくドラゴンに狙いを定める。

「あの巨大な魔力のような物…まずいわ!あれを落とされたら王都…いえ国が吹き飛ばされるわ!」

女が表情を強張らせる。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.15 )

日時: 2016/10/10 22:07
名前: ああ

女の声に応えるようにドラゴンは力を振り絞って再び天に舞い戻り、少年の手から離れた光の槍を、巨大な魔力の冷気を吐いて相殺しようとして受ける。

王都全体に響くようなドラゴンの叫びと共に光の槍は爆発し、王都の空を緑光で覆う。

「エイジス!」

女がドラゴンに向けて叫ぶも緑光の爆発は天に広がり続ける。

「少々力を使い過ぎたか。初戦はこんなもので終わらせねばな。まだ慣れていない。」

そう言って少年は顔の仮面と斬魄刀の解放を解き、爆発に巻き込まれる前に地に降りる。

「あの獣人は相当だ。これで死ぬかも分からない。さっさと去った方が良さそうだ。」

「待ちなさい侵入者!」

少年は瞬間移動…正確には高等歩法…瞬歩でその場を離れて後にした。

女は傷口を押さえながらほぞを噛んだ。侵入者の逃走を許したことがない彼女の誇りは大きく傷ついた。

そして部下を傷つけられ、守れなかった己の無力さを呪うのであった。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.16 )

日時: 2016/10/10 22:07
名前: ああ

「クソッ…」

瞬歩で王都を逃れた少年は、王都から森林を隔てて離れた街に足を踏み入れていた。

途中、あの女騎士が通報したのか騎士団の追っ手が追いかけてきたが振り切った。力を使って始末すれば目立ってしまい、居場所が知られてしまうからである。

少年は全身から血を流し、いつの間にか足を引きずっていた。

「油断した…これ程とはな…」

息を切らしながら獣人を思い出す。女騎士は少年にしてみれば口程にも無かったが、獣人の力は相当のものであった。現に少年は深傷を負わされている。

「あの獣人、死んだか?いや、分からない。死ぬのを確かめる前に王都を飛び出したからな。だが普通なら生きてはいまい…あくまで普通ならだが…」

そんな独り言を呟いている内に悲鳴が聞こえた。高い女の声である。

少年の足は悲鳴がした方向へ無意識に進んでいた。

街の南へ出ると、黒長髪のゴスロリ服に身を包んだ杖を持った少女が仮面を顔に被った男に押し倒されていた。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.17 )

日時: 2016/10/10 22:08
名前: ああ

「グヘヘヘヘ あの娘には劣るけどこれは上玉だなぁオイ!」

仮面の男が少女の服を脱がそうと手をかける。

「何をしている。」

「あぁ!?」

少年に気付いた男は仮面に覆われた顔を此方に向ける。

「見ての通り、上玉を見つけたんでこれからお楽しみの時間ってところだ!そうだ、お前もどうだ?!俺のお古で良ければな!」

押し倒された少女は恐怖に震え涙を流している。

「その女を放してやれ。」

「てめえ邪魔しに来たのかよ!せっかくこれからお楽しみなのによぉ!俺は不機嫌になったぜ!死んで償ってもらうぜ!」

そう言うなり、男の口から赤い霊圧の塊が一直線のビームになって放たれた。

「虚閃(セロ)か。だが威力はその程度か。」

少年も顔に手を翳して仮面を出現させ、少年の掌から青い虚閃が放たれ、瞬く間に赤い虚閃を掻き消して男の上半身を消し飛ばした。

「さっきの獣人が強かっただけに拍子抜けだな。」

仮面を解除すると地面に膝をつく。

「初日だというのに力を使い過ぎたか。まだ体が強過ぎる霊圧に慣れてないようだ。もう動けん…。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.18 )

日時: 2016/10/10 22:09
名前: ああ

少年は朦朧とする意識の中でハッと思いついた。それは再生能力である。今まで半ば無我夢中だった為に失念していたのである。

少年は意識を集中させると体の傷が塞がり出血が止まった。力を振り絞り疲弊した体を起こす。

「あ、あの…助けていただいてありがとうございました!」

仮面の男に押し倒され、震えながら涙を流していた少女が身を起こしていた。

「ああ。あまり人気の少ない所を女が1人で出歩くんじゃないぞ。」

少年がその場を後にしようと足を再び街の方に向けた時、
「あの、名前を聞かせて下さい。」と少女が願う。

「名前…名前…」

名前を聞かれてハッとする。獣人や女騎士にも何者だと問われて答えていなかったのを思い出す。

「この世界では人名はカタカナなのか?」

「え?いえ、漢字も平仮名も使われていますが…」

質問に対して思わぬ質問で返されて少女は目を丸くしている。

「そうか。だが名前が無くてな。名乗る名前が無い。」

少年は思案したが良い名前が思い浮かばない。この世界に来てまだ1日も経っていなかったので名前などあるわけがない。

「ということは身分証は持っていないんですか?」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.19 )

日時: 2016/10/10 22:09
名前: ああ

「この世界に来たばかりでな。持っているのはこの斬魄刀だけだ。」

腰に差している刀の柄を叩く。

「ざんぱくとう…。その刀のことですか。それより、この世界に来たばかりってどういうことですか?!それとお金も身分証も無いって…!」

「そういうことだ。おまけに追われる身だ。じきに此処にも騎士団の追っ手が来る。じゃあな。」

街を後にしようとする少年だが、疲労の為かその足取りは重い。

「待って下さい!お金も無いのに食べる物はどうする気なんですか?!」

「魚を捕まえたり木の実を探したりするしかない。お前もさっさと俺から離れることだ。騎士に見つかれば一味だと思われるぞ。」

「お話は後でゆっくり聞きます。助けていただいたのにお返しもせずに貴方を見捨てられる筈がありません。ついてきて下さい。」

少女が少年の腕を掴む。

「いや、この程度のことを恩に感じなくていい。」

「いいから早く来て下さい!放っておけません!」

少女は少年を引きずるように街の中心へと歩き出した。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.20 )

日時: 2016/10/10 22:10
名前: ああ

街の中心にある宿泊施設の一室でテーブルを挟んで向かい合う。

「砕けろ 鏡花水月」

少年が斬魄刀の始解を解除すると、少女から見て青いスーツに身を包んだ茶髪の男から元の姿に戻った。

「これで受付の男を完全催眠にかけて姿を偽り、紙切れを身分証に見せてこの部屋に入った。」

少年が刀を鞘に収める。

「貴方は俺のことは問題無いと言いますし受付ではヒヤヒヤしましたけどそういう能力だったんですね。それで何で追われているんですか?」

少女の質問を受けて少年はこの世界で目覚めてから今までのことを洗いざらい話した。

「ガルガイド王国騎士団の団長とあの《狼-フェンリル-》を!?」

少女が思わず声を大きくする。目は見開いている。

「団長とやらは大したことなかったがあの狼男は強かった。仕留められたかどうかも分からん。フェンリルとは?」

「その狼男のことです。フェンリルとは彼の二つ名です。巨大な氷の魔力と非常に素早い動きで敵を凍らせ切り裂く彼は王国騎士団最強の騎士です。この世界で彼に敵う人なんて…話だけならにわかに信じられません。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.21 )

日時: 2016/10/10 22:11
名前: ああ

「さっきの虚閃を見ただろう。」

「セロ…?あの青いビームのことですか。確かにあの威力なら納得いきますね。」

少年の虚閃は少女を襲っていた男の上半身を消し飛ばし、その先にある巨大な崖を消滅させていた。

「まだ力が体に馴染んでないから本来の威力を発揮できないが、あれで分かっただろう。」

「では貴方は突然この世界にやってきた異世界人で、とても強いけど力が不安定で奇抜な格好をした正体不明の不審者で、団長とフェンリルを瀕死にして逃げてきた人なんですね?!」

少女がテーブルに手を力強く叩きつけて立ち上がる。

「不審者…。フェンリルは瀕死かどうか分からん。だが雷霆の槍を食らって無事ということは無いだろう。それと何度も言うが団長は弱かった。」

少年が手を上げて下げるジェスチャーをする。座れという意味だろう。

「あの団長はとても強いんです。正確には王国の第二騎士団の団長ですが。騎士団は全部で5つあり、第二騎士団はその中でも精鋭揃いなんですよ?代々王国の騎士を務めてきた名門の家柄で、その中でもあの団長は有数の実力者、数世代に1人とまで言われています。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.22 )

日時: 2016/10/10 22:12
名前: ああ

「絶大な魔力を持ち、剣の腕も相当なもの。才色兼備の誉れが高く、気高くて誇り高い王国中の憧れの存在です。戦でも決闘でも未だに負け知らずで騎士団を束ねる力も高く、彼女の一声で士気は高まります。未だに侵入者や犯罪者を取り逃がしたこともありません。」

「妙に敵を褒めるな。いやお前にしたら敵ではないか。だがそんな奴も今日俺を取り逃がしたわけだが。」

少年は立ち上がって湧いていた湯を二つのコップに注いで紅茶を淹れる。

「貴方はとんだイレギュラーですね。騎士団は全力で貴方を捜索するでしょう。今日は此処で休んで明日は王国領から出ましょう。」

出された紅茶を少女を飲み干す。

「お前もついて来るのか?危険だからやめた方がいい。」

「王国領ではもう貴方は身分証を発行出来ません。貴方は犯罪者ですから。そういった手続きのやり方も知らない上にお金も持っていない、道も分からない貴方を1人にするわけにはいきません。」

真剣な眼差しで言う。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.23 )

日時: 2016/10/10 22:13
名前: ああ

「…すまんな。だが王国では身分証が無いと答えると侵入者扱いされたのに他の国で発行出来るのか?入国出来るかも分からないぞ。」

「それはガルガイド王国は特に他所者に厳しく警戒を強めている国だからです。そこは問題ありません。グリーン王国には伝手がありますから。そろそろ夕食の時間です。食堂に行きましょう。」

(グリーン王国?聞いたことあるような名前だな。いや、まさかな。)

生前の記憶を辿りながらある男を思い出す。直接関わりがなかったが、いろいろな意味で印象的な男であった。

(グリーン王国の国王は多くの妻や妾を抱えてハーレムを築いている男かもな。生前の世界では性春童帝だったが。)

どうでもいいことを考えている内に腹の虫が鳴る。そういえばこの世界に来てから何も食べていないことに気づいたのである。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.24 )

日時: 2016/10/10 22:13
名前: ああ

一方、ガルガイド王国・王都ガルドリア ガルドリア城

「エイジス!しっかりしなさいエイジス!」

団長の金髪の女が全身血塗れで意識の無い狼男…もとい16~17歳程の人間の姿になったフェンリルことエイジスを力を込めて呼ぶ。

「意識不明の重体です。いつ目を覚ますのかも私共には…」

王宮に務める医者がベッドに横たわるエイジスを見やりながら険しい表情で団長に説明する。

「そんな…。エイジスがこんなことになるなんて…!私にもっと力があれば…!」

そこに医務室のドアを開ける音が響く。王国第二騎士団の騎士である。

「団長。王がお呼びです。速やかに王の間へお越し下さい。」

「分かったわ。」

眠っているエイジスを尻目に団長が部屋を出る。彼女自身も相当な深傷を負っており、医者による治癒魔法でかろうじて騎士の肩を借りて歩いていた。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.25 )

日時: 2016/10/10 22:14
名前: ああ

王の間

玉座に腰をかけている、首の辺りまで髭を生やし、真紅の衣に身を包む壮年の王が団長に声をかける。

「しくじったそうだな。」

たった一言でズシリと重く厳しく、押し潰されるかと思うくらいの威圧を感じる。

「申し訳ございません。全ては私の力が及ばないばかりでございます。」

片膝をついて畏るも、黒尽くめの少年に負わされた傷がズキリと響く。平静を保とうとするがあまりの痛みに顔が思わず歪む。

「まさかお前を圧倒する強者が居るとはな。聞けばエイジスも重体というではないか。王国最強のエイジスをあそこまでにした男とは何者だ?」

一言一句が団長に重くのしかかる。今まで失敗など決してしなかった、敗北などありえなかった彼女の誇りをズタズタに引き裂いた憎き黒尽くめの少年の姿が脳裏に浮かんで消えない。

両手は悔しさで震えている。

「名を聞いても自分は誰だか分からないと答えていました。記憶喪失の類か、或は他国から派遣された者か…。身分証の提示にも応じず、攻撃を仕掛けてきたので已む無く戦闘になりました。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.26 )

日時: 2016/10/10 22:14
名前: ああ

自らの敗北と失敗の報告など経験の無い彼女は口を開くのも辛い。それでも振り絞って声を出す。それが王国騎士としての王への忠義だからである。

「それと、黒尽くめの男は不思議な力を使います。あれは魔力ではございません。」

「魔力を使わずにどうやってお前やエイジスと戦ったのだ?」

王が頬杖をつく。その姿勢がより一層目を細めて険しいものとなる。

「はい。魔力ではない、別の何かです。魔力とはまるで違う、重く濃い力です。奴はその力を斬撃や術等に変えて使います。」

「成る程。分かった。既に王国騎士団総勢に密入国者捕縛の命を下した。第二騎士団はお前とエイジスの傷が癒え次第任務に参加せよ。」

王が立ち上がり力強い声で命令を下す。

「はっ!」

「王国の秩序を乱す者はこのワシが許さん!お前は下がって良い。」

そう言うと国王は赤い衣を引きずりながら奥へと消えていった。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.27 )

日時: 2016/10/10 22:15
名前: ああ

翌朝のことである。意識を失い医務室のベッドで眠っていたエイジスが静かに瞼を開いた。

「此処は…医務室…いてっ」

体を起こそうとすると全身が痛む。四肢や胸部にチューブが繋がれており、身動きが出来ない。

「そうか…俺はあの不審な侵入者と戦って…」

戦いの記憶を辿る。黒尽くめの男が作り出した光の槍を自身の冷気魔力で相殺しようと龍の姿で対抗したが、槍はエイジスに直撃し、王都の空を覆う大爆発を起こしたのである。

そこから先の記憶は無い。恐らく攻撃を受けて意識を失い、地に落ちたのであろう。

「そうだ!王都は!?団長は!?」

辺りを見回すが誰も居ない。時計を見るとまだ早朝4時であった。しかしエイジスの声に気付いた医者が部屋に入ってきた。

「エイジス様、お目覚めでございましたか。第二騎士団長様なら隣の医務室で眠っておられます。かなりの深傷を負っておられましたが王への報告まできっちり行ってから眠られました。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.28 )

日時: 2016/10/10 22:16
名前: ああ

「それと、王都は無事です。話によれば密入国者は戦闘後速やかに逃亡したとのことです。」

「良かった。王都も団長も無事で良かった。」

医者の報告を聞いて安堵の息を吐くエイジス。しかし表情は安堵から悔しさに変わる。

「俺が油断していなければ、これ程の不覚を取らずに済んだのに…そして団長を傷つけさせてしまった…。」

「逸る気持ちはお察し致しますが、今日1日は絶対安静です。」

医者が気の毒そうにエイジスを宥める。

「クソッ!あの野郎絶対許さねえ!」

左腕を力強く壁に叩きつけると、壁に大きなヒビが入った。頭からあの黒尽くめの男がどうしても消えなかった。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.29 )

日時: 2016/10/10 22:16
名前: ああ

ガルガイド王国領南部の森林。グリーン王国へと続く道があるが、いくつもの道に枝分かれしていて初見では迷うこと必至の難所として知られている。

「あともう少し歩けばグリーン王国です。」

「あのグワダタウンではどうにか上手く蒔いたが、ガルガイドの追っ手に見つからなければいいが…。」

少女の先導で黒尽くめの少年がグリーン王国へと続く道を進んでいる。

馬の蹄と鎧が擦れ合う音が遠くで響き、それが段々と近づいてくる。

「言ってる側からこれか…。」

やがて騎士団の小隊が少年の姿を捉える。

「黒尽くめの男…。この者で間違い無いな。」

騎士の1人が調査書を取り出して確認する。

「そこの黒尽くめの男よ。今すぐに投降しろ。そうすれば命までは取らない。」

別の騎士が少年に投降を促す。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.30 )

日時: 2016/10/10 22:17
名前: ああ

少年が刀の柄に手をかける。騎士達もそれを見て剣を構える。

「待って下さい。今手荒なことをすればガルガイドの騎士団は私達を追ってグリーン王国に雪崩れ込んできてしまいます。」

少年の腕に手をやり抜刀するのを少女が制止する。

「派手なことをすると面倒なことになるか…。ならば」

「縛道の六十三 鎖条鎖縛」

光の鎖が出現し、騎士達と馬を縛り上げる。

「うわっ、なんだこれは!貴様何をした!」

馬の制御が出来なくなり、小隊長格の騎士が落馬する。他の騎士達も次々に落馬し、身動きが取れなくなる。

「縛道の二十一 赤煙遁」

騎士達の群れを赤い煙が覆って視界を遮る。

「今の内に行くぞ。」

少年の言葉に首を縦に振って頷いた少女は駆け足で先を急いだ。少年もそれについていく。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.31 )

日時: 2016/10/10 22:17
名前: ああ

「上手く蒔きましたね。」

少女は息を切らしている。騎士団を蒔く為にもう3kgは走った。運動に向いていない服を着ている彼女は特に辛そうな様子だ。

「実は瞬歩や響転(ソニード)、飛廉脚やブリンガーライトと言った高等移動手段がある。」

「何故それを使わないんですか!」

散々走る羽目になった挙句に後でそんなことを言われても納得がいかないのは道理であった。

「昨日も言ったがこの世界に来てまだ2日目だ。力が…霊圧が体に馴染むのに時間がかかるらしい。出来ればあまり乱発したくない。」

生前は全く体力など無かったのに今では長距離を走っても平気な自分に驚いていた。

「なら言う必要無かったですよね?」

息を切らしながら少女が言葉に怒気を含める。

「まあ、そうだな。それより見えてきたぞ。あれがグリーン王国の国門ではないか?」

王都らしい優雅な街並みがその目に映る。街ごと囲んでいる城壁に、門は備え付けられている。大きな鋼の門の前には緑色の甲冑に身を包んだ騎士が2人、槍を構えて立っている。

「ようやく着いたようだな。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.32 )

日時: 2016/10/10 22:18
名前: ああ

2人が国門の前まで辿り着くと門番の騎士が槍をお互いにクロスさせて阻む。

「身分証を提示していただく。」

騎士の1人が手を差し出す。少女はそれに従いスカートのポケットから身分証を取り出して騎士に渡す。

「ふん、成る程な。通って良し!次!」

騎士が身分証を確認して少女に返すと今度は少年の方へ手を伸ばす。

「わけあって身分証は持っていない。」

「何?なら通すわけには行かないな。」

「あ、あの。少し宜しいですか?」

門番とのやり取りの後に少女が割り込んでくる。

「私、国王陛下の側近・ぐり~ん2号様の御婦人と面識があります。御婦人に取り合っていただけないでしょうか。」

「何?ぐり~ん2号様だと?ちょっと待て。」

ぐり~ん2号という名を聞くなり、騎士の態度が変わり、魔力による通信無線で話し始める。

「あ、はい。カクカクシカジカでございまして。ええ。承知致しました。」

騎士は通信を終えると「お前も通っていいぞ。」と言って門を開けた。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.33 )

日時: 2016/10/10 22:19
名前: ああ

「お前国の上層部と繋がりがあったのか。」

「はい。ぐり~ん2号様の御婦人・ぐり子2号様には幼少時に魔術の手ほどきを受けました。」

門を通った少年の前には緑色一色の壮大かつ異様な光景が広がっていた。

建造物が全て緑色なのである。

城も、住宅も、店も、騎士の甲冑も、何もかもが緑色である。

「夜になると王都の東の港では緑色のネオンライトが宵闇に照らされて絶景になるんですよ。この王都・グリーンバレーは全てが緑です。」

「ともかく此処なら鬱陶しい追っ手は来ない。まずは身分証を発行しなければな。」

「身分証の発行はグリーン役所で出来ます。案内しますので行きましょう。」

緑色一色の街並みに気を取られながらも、この世界で生きていく為に必要な肝心の身分証の発行という目的を思い出した。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.34 )

日時: 2016/10/10 22:19
名前: ああ

「身分証発行の手続きですね。まずこの用紙に必要事項を記入して下さい。」

少女の案内で役所に到着した少年は役所の窓口で役人に促されて渡された用紙に目を向けた。

「そう言えば何も考えていなかった…。」

名前、年齢、住所、所属…そう、この少年には何も無いのである。

「そう言えば貴方、この世界に昨日突然来た正体不明の不審者でしたね。」

含み笑いしながら少女が皮肉を言う。

「その不審者の男を警戒もせずに同じ部屋で泊まって行動してきたお前もお前だがな。」

「助けていただいた恩は返さなければグリーン王国民の恥ですから。それに貴方は何となくそういうことはしないと信じられました。」

少女がクスッと笑う。

「今貴方の名前を思いつきました!今から貴方は不審者さんです!」

「冗談はさて置き、記入欄を埋めないと身分証は手に入らないわけだが。」

少女の冗談を無視しつつペンの尻で頭を叩いて考え込む。

「自分が好きな名前を付けてしまいましょうよ。住所や所属は何とかします!」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.35 )

日時: 2016/10/10 22:20
名前: ああ

「お前に何か出来るのか?またぐり~ん2号夫人か?」

「はい。肩書きや住所ならそこから得られます。この役所に来る前にご夫人に通信でお願いしていたんです。あ、今お部屋が来ました。」

少女が耳元に小さな魔力力場を発生させて夫人と思われる女性と通信を始める。

「はい。はい。分かりました。ありがとうございます。ええ、それではまた。はい。失礼致します。」

通信が終わったようである。

「用紙、貸して下さい。」

少年から用紙を取り上げると、通信で指示された住所と所属を書いていく。

「これでよしっと。名前と年齢は私にはどうにも出来ませんが、後は自分で考えて下さい。」

用紙を少年に差し返す。

「いい名前が中々思いつかなかった。だから昔のコテハンを使うことにする。」

「コテハン?」

聞いたこともない単語に耳を傾げる。

「生前使ってた偽名のようなものだ。よし、これでいいだろう。」

でっち上げた名前、誕生日、年齢を書いて窓口に提出する。3分程待つと完成した身分証を役人に手渡された。

「これでこの世界で密入国者扱いされなくて済むな。何から何までお前のお陰だ。礼を言う。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.36 )

日時: 2016/10/10 22:21
名前: ああ

「それで、これからどうするんですか?」

「…何も考えてなかった。」

予想出来た筈の問いに答えられない。

「そうですよね。家無し無職の不審者ですもんね。その身分証の住所まで案内します。不審者さん。」

「もう好きに呼べ。済まんが頼むぞ。」

程無くして煉瓦造りの大きな城・グリーン城の付近に広がる城下町に辿り着いた。

「此処が貴方の家です。ああ、それと午後3時にグリーン城に来て下さい。ぐり~ん国王陛下がお呼びです。」

緑色の煉瓦造りの二階建ての家が目に映る。

「ぐり~ん国王が?俺に何の用だ?」

「貴方の所属、一応書類上はグリーン王国軍第一騎士団所属になってますから。それでは私は家に帰ります。今まで本当にありがとうございました。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.37 )

日時: 2016/10/10 22:21
名前: ああ

「ああ、今までありがとう。お前が居なければ此処まで逃げてくることは出来なかった。」

「また縁があればお会いすることもあるでしょう。それまでお元気で、不審者さん。」

握手を交わすと少女を一礼して去っていった。

「さて、新たな住居を見てみるとするか。」

中に入ると一階は居間、浴室、台所があり、二階に登るとベッド付きの寝室と個室、バルコニーがある。テレビや洗濯機、電子レンジや冷蔵庫といった家電も揃えられていた。

「誰がやったのかは知らんがありがたく使わせてもらうとしよう。この世界、一応文明は発展しているようだな。」

少年は居間のソファーに腰を掛けるとテレビのリモコンのスイッチを押す。

「次のニュースです。昨日午前10時から11時頃にかけて、正体不明の謎の男によるガルガイド王国王都ガルドリアへの襲撃事件が発生しました。死者や家屋の破損は無いとのことですが、ガルガイド王国第二騎士団のエリス・グリモワール団長が重傷、同騎士団所属のエイジス卿が重体に陥ったとのことです。男は2名と戦闘後に逃走し、騎士団は男の行方を追っています。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.38 )

日時: 2016/10/10 22:21
名前: ああ

「只今新しいニュースが入りました!ガルガイド王国はグリモワール氏の証言により男の似顔絵を公開し、周辺国に協力を要請し国際指名手配することを発表しました!」

ニュースキャスターの背後の映像パネルが公開された少年の似顔絵を映し出す。紛れも無く少年の顔である。印象的な眼帯もしっかり描かれていた。

「まずいな。グリーン王国に居ても危ないのではないか?いや、それは国王に会ってから判断するとしよう。」

テレビの電源を切り、時計は午後2時半を指していた。

「そろそろ行かねばな。」

少年は新居を後に、グリーン城に向かうことにした。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.39 )

日時: 2016/10/10 22:22
名前: ああ

グリーン城 王の間

「国王陛下、そろそろ約束のお時間です。」

王の側近・ぐり~ん2号が王の傍に立って報告している。

「うむ。ここへ通せ。」

ぐり~ん2号が王の間の扉を開くと、黒尽くめの少年がツカツカと歩いて王の面前に立った。

「良く来たな。これまでさぞ苦労をしたことだろう。」

ぐり~んの顔が少年の目に映る。彼も少年と同じく生前とは似ても似つかない整った顔立ちをしていた。髪色と瞳の色は名前に違わず緑色である。

「貴様、国王陛下の御前であるぞ!平伏さぬか無礼者!」

ぐり~ん2号が少年の態度を咎めるが、ぐり~んは良い良いと言って制止する。

「ぐり~んよ。ニュースの件は知ってるか?」

少年は恐れもせず王にタメ口を利いて尋ねる。

「国際指名手配のことか。それなら安心するといい。ガルガイドの協力要請は断った。今日からお前はこのグリーン王国の民であり、グリーン王国軍の騎士だ。民を守るのが王たる俺の役目だ。俺は民を売るような真似は絶対にしない。」

ぐり~んは毅然と言い放つ。

「それは心強いな。お前とは生前殆ど関わりは無かったが見直したぞ。」

ぐり~んの言葉を聞いた少年は安堵の笑みを浮かべた。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.40 )

日時: 2016/10/10 22:22
名前: ああ

「俺の肩書きである第一騎士団所属とは?」

少年はぐり~んの言葉を聞いて書類上の肩書きを思い出す。

「文字通りお前は今日から我が国の第一騎士団所属だ。但しあくまで肩書きだ。あまり気にする必要は無い。いざとなれば国を守る戦いに参加してもらうことになるが、ガルガイドのエイジスとやりあったお前なら心配無いだろう。」

「そうか。何故お前はここまで俺に良くするんだ?」

「お前も俺も、生前、不細工の痛みを味わった仲だろう。それにぐり~ん2号の身内に連なる者が認める男だ。理由などそれで充分だ。」

「そうか。恩に着るぞ。」

そう言うと少年は一礼する。

「また何かあれば呼ぶ。お前は自由気儘に生活するといい。だが、王国領からは決して出るな。このグリーン王国以外の周辺国は皆、お前の国際指名手配に協力する姿勢を見せてるからな。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.41 )

日時: 2016/10/10 22:23
名前: ああ

「結局あの女の名前、聞いてなかったな。俺も名前を教えていない。身分証も見せていないしな。」

城から出て城下へ下るとふと少女のことを思い出すが、すぐに頭から離れていく。

「おい、そこのお前!」

近くで声がするが此処はグリーン城の城下町である。人ごみなので誰が誰を呼んでいるかは分からない。少年は気にせず家を目指して歩く。

「無視すんな!そこの黒尽くめの男!」

その言葉で自分が呼ばれていることに気付く。声が聞こえた方向を探すと、中くらいの身長の筋肉質の男が立っている。

「俺に用か?」

「俺だよ。水素だよ。」

「何?お前が水素だと?」

男は水素と名乗る。生前親交のあった男の1人だが、やはりこの男も生前と姿が変わっていた。

「積もる話もあるが、ここじゃ人ごみだしあれだな。俺の家に来いよ。」

「しかし何故俺だと分かった?俺はお前に名乗ってないし生前と姿も変わっているが。」

「ニュースに映ってたお前が使ってたの、あの某漫画の技だろ?それに厨二病丸出しの格好だ。お前だってすぐに分かるよ。さあ行こうぜ。」

家に帰るつもりであったが思わぬ出会いがあった。少年は水素に付き合うことにした。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.42 )

日時: 2016/10/10 22:23
名前: ああ

「お帰りなさいませ、ご主人様。」

大きな庭を持つ青い建造物である豪邸の扉を開けると青髪ショートのメイドが水素を出迎える。

「レイラ、客人だ。茶の用意を頼む。」

レイラと呼ばれたメイドは「ようこそおいで下さいました、お客様」という言葉と共に笑顔で一礼するとその場を去る。

階段を登り二階に上がると一室に通される。恐らく客間だろう。

「メイドが居るのか。快適な生活を送ってるようだな。」

「可愛かっただろ?やっぱ二次元の女の子は癒しだよな。」

ソファーに腰をかけながら水素は少年にも促す。少年もそれに従う。

「それで、この世界は一体なんなんだ?」

少年が昨日目覚めてからずっと疑問に思っていたことを切り出す。

「お前はまだこの世界に来たばかりのようだな。この世界は死後の二次元世界だ。だが死んだら誰でも行き着くわけではない。」

「どういうことだ?」

「この世界、どうやら死んで行き着くのは生前のポケガイ民だけのようだ。それ以外のこの世界の人間は元々この世界で生きてる人間達だ。」

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.43 )

日時: 2016/10/10 22:24
名前: ああ

「失礼致します。」

レイラが紅茶と菓子を用意して部屋に入ってくる。それらをテーブルに置くと「ごゆっくりどうぞ。」と一礼して部屋を出ていった。水素は「いつもありがとう。」と声をかける。

「しかも生前望んだ力なり地位なり容姿なりが大体の奴に備わってるようだぜ?お前も某漫画の技を使えただろ?その刀もその証拠だしな。」

紅茶を啜りながら水素が説明する。

「成る程。ようやく得心出来たぞ。ならお前にも能力があるのか?」

少年は出された茶菓子に手をつける。

「いや、それが無いんだなーこれが。特殊な能力なんてなーんも無い。」

「そうか。お前はハズレを引いてしまったのか…。」

少年が気の毒そうに水素を見やる。だが水素は落ち込むどころか笑っていた。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.44 )

日時: 2016/10/10 22:24
名前: ああ

「まあ特殊な能力は無いがこっちの世界は楽しいぞ。お前は大変なことになってるようだな。」

水素は茶菓子を摘むと口に頬張る。

「目覚めたらガルドリアに居て女騎士に絡まれた。鬼道で黙らせてトドメを刺そうとしたら狼男が現れて虚と死神の力を駆使して戦った後に、まだ力が体に馴染んでいないことを感じてガルガイド領から逃げて此処まで来た。そしたら指名手配されていた。」

遠慮も無く少年はケーキを一気に口に運ぶ。

「それは災難だったな。だが此処に居るってことはぐり~んはお前を歓迎したんだろ?暫くはグリーン王国から出ないで暮らすんだな。」

「ああ。望んだ力と容姿を与えられた代わりにこの世界には酷い歓迎を受けた。」

紅茶を啜る音が部屋中に響き渡る。

「せっかくだ。この世界の説明を一通りお前にしてやろう。」

「まだ何かあるのか?」

少年は紅茶を飲み干すとカップをテーブルに置く。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.45 )

日時: 2016/10/10 22:25
名前: ああ

それから少年は水素にこの世界についての説明を受けた。

クエストなるものが各国で存在し、達成すれば報酬を貰えること、

クエスト毎にランクがありSからFランクに分けらていることと、

各ランク毎に挑戦出来る資格がクエスト受注希望者の強さによって違うこと、

国が抱える軍はこの世界における高位魔力者の集まりだということ、

この世界の元々の住人も人によるが魔力を持ち戦闘能力を有していること、

この世界に来たポケガイ民の異能を持つ者を能力者と呼ぶこと、能力者の数は未だ僅かだということなどである。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.46 )

日時: 2016/10/10 22:27
名前: ああ

さて、一通り説明は終わったがもうこんな時間か。お前、今日は此処で飯を食っていけ。」

水素は立ち上がるとレイラを呼ぶ為か部屋を出ようとする。

「ああ、お言葉に甘えるとしよう。」

その夜、少年は夕食をこの水素宅でご馳走になったが、舌を巻く程豪勢なものであった。能力の代わりに財産を手に入れていたとするなら納得も出来る。

「世話になったな。ではこの辺で俺は帰る。」

少年が立ち上がると、水素もそれに続く。

「お前の家までお前を護衛しよう。何があるか分からないからな。」

「能力は無いんじゃなかったのか?俺には強大な能力がある。心配無い。」

水素の申し出を断るが、水素は引き下がらない。

「まだ力を完全に使いこなせるわけじゃないんだろう?お前はまだ力の使用を控えた方がいい。行くぞ。」

「そこまで言うならそうしてもらうとしよう。」

水素はレイラに少年を送る旨を伝えると、少年に続いて家の外に出た。

Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.47 )

日時: 2016/10/10 22:27
名前: ああ

家への夜道を水素と歩いていると、正面に人影が浮かんでいる。此処はグリーン城の城下町なので夜でも人が大勢居ても不思議ではないのだがその人影は此方を向いたまま動かない。

「おい、誰だてめえ。」

水素が違和感を感じて人影に詰め寄る。

「その問いには名ではなくまずは力で答えよう。だが此処では人や家屋が多過ぎて戦うには不都合だ。ついて来い。」

人影は此方が近づくに連れて徐々に姿を露わにしていく。赤い鎧に青い上下の衣服、青いサンダルのような履物、右目は生前よく見た黒い文様が浮かんだ紫と赤の瞳である。

「水素、無視しよう。今は面倒だ。それにお前は能力が無い。挑発に乗るな。こいつはヤバい。」

水素の肩に手をかけて制止するも水素はそれを振り切る。

「止めんなよ?久々に楽しめそうな相手に出会えたんだ。こいつは俺が相手する。お前は今の内に帰れ。」

「能力も無いのにどう戦うつもりだ?あいつを見ろ。あれは万華鏡写輪眼と輪廻眼だぞ。お前では無理だ。」

「心配すんな。おいお前、場所を変えるとか言ったな。さっさと案内しろ。」

少年の制止も聞かずに水素は目の前の男の挑発に答える。

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