「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」
【概要】
ポケガイ民が理想の力(オリジナルも既存作品からのも)と容姿を手に入れ、二次元世界に生まれ変わる。力を使って戦いを繰り広げたり、二次元ヒロインと出会って生き抜いていく物語である。
【あらすじ】
ポケガイ住民のとある青年は、ある日呆気なくその短い生涯を閉じる。次に彼が目を覚ますと、そこは憧れの二次元世界だった。理想の力と容姿を手に入れた青年は様々な出会いと戦いを繰り返して生き抜いていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.48 )
「俺が戦いたいのはそこの尋常ならざる霊圧を持ってる黒尽くめの男なんだがな。お前からは霊圧もチャクラも魔力も気も何も感じない。お前に興味は無い。失せろ。」
男は水素をあしらうように答える。
「おい、喧嘩売っといて逃げる気か?もしかして俺にビビってんのか?」
水素は挑発に出るが、男は動じた様子は見せずに数秒間瞑目する。
「いいだろう。そこの黒尽くめより先にお前を前座として葬ってやる。ついて来い。」
男はそう言うと建造物に飛び移って素早く移動を始める。忍者らしい身のこなしだ。
水素はその速さに平然とついていく。能力は無いと言っていたが身体能力は非常に高いようだ。
「仕方ない。このまま帰るわけにも行かないだろう。」
少年はその後を瞬歩で追う。暫くすると城下町の中心にある巨大なドーム状の建造物に辿り着いた。
「此処はコロッセウムと言ってな。この世界で昔剣奴同士が殺し合いをさせられる民衆の娯楽の場だったようだ。今は催し物や決闘に使われるらしいが今夜は誰も居ない。此処なら戦いの場に相応しいだろう。」
そう言うと男は入り口からコロッセウムの中に消えた。水素と少年もその後に続く。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.49 )
「本当に大丈夫なのか?」
コロッセウムのフィールドに3人の男が立っている。少年は心配そうに水素に確かめる。
「お前はフィールドの外に出ろ。一番上の観客席で俺の勇姿でも見てるんだな。」
水素は余裕を崩さない。能力も無いのに何を考えているのだろうか。
「俺は何度も止めたからな。だが危ないと思ったら助けに入る。」
「手出しはすんな。お前は見てるだけでいい。」
運動能力が高いだけで随分な自信だなと呆れつつ瞬歩で観客席に移動する。無論水素の言葉など信じていない。危険だと感じたら自分が忍者男と戦うつもりだ。
「話は終わったか?」
忍者男がフィールドの西に立つ。水素も東に立って相対する。
「ああ。さっさと来いよ。俺に喧嘩売ったことを後悔させてやるぜ。」
水素がシュッシュッとボクサーの真似事をすると身構える。
「ほざけ。お前は前座だ。さっさと殺してやる。」
忍者男が術の印を結ぶ。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.50 )
「火遁・豪火滅却」
印を結んだ男の口から火炎が発射される。火の海となりフィールドを覆い尽くし、水素を飲み込む。
「いきなり豪火滅却か。まずいな。」
能力の無い水素に容赦が無いところを見た少年は初撃だからと止めに入らなかったのを後悔したが、それは杞憂だった。火炎を振り払った無傷の水素が出てきたからである。
「いやー、あったけえな今の。で、これで終わりか?」
「馬鹿な…!豪火滅却が効いていないだと…!貴様何者だ!」
「趣味でヒーローをやっている者だ。」
水素が勢いをつけて地面を蹴って忍者男目掛けて跳躍する。その反動でフィールドに衝撃波が発生する。
「須佐能乎!」
忍者男の万華鏡写輪眼の力で忍者男を覆う青色のチャクラの巨人が現れる。だがその須佐能乎は水素のパンチで容易く破壊された。
「普通のパンチ」
水素の拳が忍者男の腹部に炸裂する。鈍い音を立てて忍者男がフィールドの隅に吹っ飛ばされ、スタントが破壊される。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.51 )
「加減はしてやったんだぜ。早く出てこいよ。少しは俺を楽しませろ。」
水素がクイクイと右手で挑発する。瓦礫となったスタントから忍者男が吐血しながらフィールドに戻る。
「お前を甘く見ていたよ。お前からは何の力も感じなかったんでな。だがその異常な強さは何だ!これなら少々本気を出しても良さそうだ!完成体須佐能乎!」
忍者男が先程よりも大きなチャクラの巨人を呼び出す。巨人はチャクラで出来た巨大な刀を抜刀して構える。
「天照」
忍者男の片目の万華鏡写輪眼の視点から水素が居る位置で黒い炎が発生するが既にそこには水素は居なかった。目にも止まらぬ速さで避けたのである。
「だがこの十束の剣を受けても余裕でいられるかな?」
須佐能乎が刀を振り下ろすも、高速で動いている水素には当たらない。刀が振り下ろされたところに深い切れ目が入るのみだ。
「普通のパンチ」
水素の拳が須佐能乎に直撃するが、今度は少しヒビが入るのみである。
「残念だったな!死ねえ!」
再び須佐能乎が刀を振り下ろすがそれは軽々と避けられる。水素はもう一度須佐能乎に迫る。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.52 )
「連続普通のパンチ」
須佐能乎に右腕のラッシュが叩き込まれると須佐能乎に入っていたヒビが広がり、やがて破壊された。拳が忍者男の顔面を捉える。
「天照」
だが忍者男の目も水素を捉えていた。視点から発火し、水素の体を黒い炎が包む。
「須佐能乎」
黒い炎がついた水素の拳を一時的に避けて距離を取る為に須佐能乎を出す。須佐能乎は一瞬で破壊されるが忍者男は素早く後ろに下がって拳を避ける。
「天照の黒い炎は対象を焼き尽くすまで消えない。終わりだな。」
「そうか?この変な黒い炎、あったかいだけだぞ?っていうかヤバッ、服燃えるじゃん!」
水素は服が燃えていることに気づいて上着を脱ぎ捨てる。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.53 )
「天照をも封じるか、ならば!」
輪廻眼の瞳術を発動させる。
「地爆天征!」
印を結ぶとコロッセウムのフィールドの地面や観客席までの全体が宙に吸い上げられていく。水素や少年の体も同様だった。上を見上げると黒い球状の核が凄まじい引力で周囲の物を2人ごと引き寄せている。
「このままじゃ俺まで巻き込まれる。仕方ない、おい水素、悪いが手を出すぞ!」
少年が水素の返答も聞かずに霊子で出来た光の矢を出現させる。
「神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)」
矢を黒い核に向けて放つと矢は核に突き刺さり、ヒビが広がって破壊される。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.54 )
「地爆天征がこうもあっさりと…」
破られた。空中に引きつける引力が無くなったので水素と少年は落下して地に着地する。既にコロッセウムは地爆天征の影響で原型を留めておらず、フィールドがあった円を囲むように瓦礫の山を築いていた。
「手出しすんなって言ったろ。」
水素が不満そうに少年を見る。
「俺まで巻き込まれたんだから仕方ないだろ。後はお望み通り1対1で楽しむといい。お前の強さは良く分かったしな。」
そう言うと少年は飛廉脚で水素の遥か後方に下がる。
「お前も今は俺との戦いに集中しろよ。あいつに手出しさせるような真似すんな。」
水素が不満を忍者男に言う。
「木遁・花樹海降誕!」
忍者男が印を結ぶと無数の巨大な樹木が地面から出現し、複雑に入り組んで水素に襲い掛かる。
水素はそれを軽々と避け続けるが、忍者男の狙いはそこではなかった。
樹木から無数の花が咲き乱れる。花が開くと大量の花粉が舞い上がり、それが広範囲を包み込む。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.55 )
「その花粉を吸ったものは身動きがとれなくなる。終わりだ!」
勝った!というセリフを口にしなくても顔に出ている。花粉は後方に離れている少年にも降り注ぐ。
「外殻静血装(ブルートヴェーネ・アンハーベン)」
少年は血装(ブルート)と呼ばれる力を守りに注ぎ、更に自身を取り囲む紋様を浮かべた球状の防御壁を展開して花粉を防ぐ。
水素の方は右腕を振り払うようにして横へ薙ぐと、花粉は水素にかかる前に吹き飛ばされた。
「趣味のわりい木をこんなに生やしやがって。」
拳を樹木に叩きつけると、全ての樹木が粉砕される。
「おいお前、この程度か?頼むからもっと楽しませてくれよ。」
水素が地面を蹴って忍者男目掛けて跳躍する。右の拳を忍者男に向けて突き出す。
「神羅天征!」
忍者男は両手を力強く合わせると凄まじい斥力が発生して男を中心に水素を含めて円状に周囲の物を吹き飛ばす。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.56 )
「へえ、やれば出来るじゃねえか。」
吹き飛ばされるも水素は体勢を立て直して着地する。
「お前にはこれを出しても不足は無いだろう。来い、十尾!」
忍者男は手を合わせ、背後から十本の尾を持った単眼の、コロッセウムを遥かに超す大きさの化け物が現れる。
「まずいぞ!あんな物を出されたら街は壊滅する!」
少年が十尾の恐ろしさを水素に伝えるが動揺する様子は見えない。十尾は更に進化し、複数の角や耳が生えていく。
「食らえ!尾獣玉!」
十尾が大きな口を開けると黒い粒状の尾獣のチャクラが球状に集まる。口と同じ大きさになるまで集まると、十尾は下の水素の方へ尾獣玉を発射した。
「こいつはすげえ。俺も少し奥の手を使うぜ。」
水素は右腕の拳に力を込めてそれを尾獣玉に向けて突き出す。
「マジ殴り」
突き出されたパンチの余波で尾獣玉は大爆発を起こして掻き消され、十尾をも巻き込まんだ。余波を食らった街全体に響くような悲鳴を上げて消滅した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.57 )
十尾を倒したマジ殴りの余波は忍者男にも命中したが、忍者男はその場で消滅した。
「いつの間に…。そいつは影分身だ!」
外殻静血装(ブルートヴェーネ・アンハーベン)で大爆発を凌いだ少年が、正面に居たのは外殻であることに気付く。
「仙法・超大玉螺旋丸!」
水素の頭上から顔に橙色の模様を浮かべた忍者男の本体が攻撃を仕掛ける。
「普通のパンチ」
水素の拳と忍者男の超大玉螺旋丸がぶつかり合うが、拳を受けた超大玉螺旋丸は消滅し、そのまま拳は忍者男の胸部に叩きつけられた。
「馬鹿な…こんな強さ、出鱈目過ぎる…!」
遥か宙に打ち上げられた忍者男は血を吐きながら落下する。
落下した忍者男の体は地面に強く叩きつけられた。
「おいお前。確かに強かったぜ。今まで戦った中で多分一番強い。いい暇潰しになったぜ。」
水素が手をパンパンと二度と鳴らして手に付いた汚れを振り払う。
「なんなんだ…お前のその強さは…」
忍者男が掠れた声を口から吐く。
「知らねえよ。いつの間にか最強の力を手にしてたんだ。お陰で殆どワンパンで終わってつまんねえけどな。今日はいい退屈凌ぎになった。じゃあな。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.58 )
「自分が最強とばかり思っていたが、これ程強い奴が居るとはな…この世界はやはり面白い…!」
その場を立ち去る水素を横目に忍者男は呟いた後、意識を失った。
「で、某忍者漫画の術を使うあいつは結局何者なんだ?」
瓦礫の山となり原型を留めていないコロッセウムを後に、少年は疑問を呈する。
「そういや身分証見るの忘れてたな。まあいいだろ。多分その内また会うかもしれんし。」
今頃になってコロッセウムの異変を感じた近隣住民が集まり始めるが、事は終わった後だった。張本人の1人は意識を失い倒れ、もう1人は何事も無かったかのようにその場から去った。
集まった人々はマジ殴りの余波と尾獣玉のぶつかり合いを見ていたが遠過ぎて誰が戦っているのかは分からなかった。
それよりもグリーン王国が誇る歴史的建造物・コロッセウムが破壊されたという計り知れない損失が発生することになったが、水素の知ったことではなかった。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.59 )
翌日 ランドラ帝国 帝都ランドラ ランドラ城
皇帝の間において1人の忍者が皇帝に拝謁していた。
「申し訳ございません。黒尽くめの男の力を測ること、叶いませんでした。」
片膝立ちで深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べる。
「何があった?お前の実力ならばあの国際指名手配犯とも渡り合える筈だ。」
皇帝が渋みを帯びた低い声で忍者の男に問う。
「邪魔が入りました。黒尽くめの男と行動を共にしていた男です。その男は何の特殊な力は持っておらず、魔力の類も一切感じられませんでした。しかし…」
「しかし、どうした?」
忍者の男は一旦溜める。
「ただ、尋常ならざる程強いのです。私の忍術で傷一つさえつけることが出来ませんでした。私の完成体須佐能乎を素手で破壊されました。特殊な分身に戦闘させたのが幸いでございました。」
「そいつは黒尽くめの男よりも危険な存在だな。黒尽くめの男の力を見極めあわよくば捕縛してガルガイドに引き渡し恩を売る考えだったが、とんだ邪魔が入ったものだ。」
「面目次第もございません。」
忍者の男から冷や汗が滴り落ちる。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.60 )
「ご苦労だったな北条。下がって良い。」
皇帝に退出を促されると、北条と呼ばれた忍者は一礼して皇帝の間から静かに退出した。
同じ頃、グリーン王国王都グリーンバレーは騒然となっていた。コロッセウムが破壊された件である。
既に早朝のニュースではコロッセウムが何者かに破壊されたと報道され、大規模な戦闘があったのではないかとリポーターも述べていた。緑色の塊とも言える瓦礫の山が戦闘の激しさを物語っていた。
「お前らがコロッセウムでやらかしたのか?」
グリーン王国に在国し、黒尽くめの少年の国際指名手配により近隣諸国の外交情勢が緊迫している中、王都で大規模な戦闘が可能な力の持ち主は限られていた。既に多くの騎士が国境警備の為に出払っている。
水素と黒尽くめの少年は国王ぐり~んに呼び出されていた。
「水素、それに…今は李信と名乗っているんだったな。あれ程の破壊が可能なのはお前達くらいだろう。違うか?」
ぐり~んは玉座に腰をかけて2人を睨み据える。
「待てよぐり~ん、コロッセウムを破壊したのは俺だ。ちょく…李信は関係無い。こいつはただ観戦していただけだ。」
水素がぐり~んの問いに答える。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.61 )
「お前と李信が戦ったのではないのか?」
「俺達に戦う理由は無い。忍術を使う謎の男が現れて李信との戦闘を求めてたんだ。俺はその忍術使いと戦ったんだ。」
記憶を思い起こしながら水素は説明する。
「お前と其れ程の戦闘を繰り広げるとは、かなりのやり手のようだな。」
「ああ。今まで戦った中で一番強かったと思う。多分あいつは他国の間者だ。」
「わざわざ派手な戦闘に及ぶ間者とな?」
ぐり~んが首を傾げる。
「あわよくば李信を捕縛して主国に引き渡そうと企んでたんだろう。そうはさせなかったがな。」
「して、お前ならば当然倒したのだろう。そいつの身柄はどうした?」
「奴は分身を使って俺と戦ってた。本体は何処かに潜んでいたんだろう。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.62 )
「もういい。分かった。それと実はな、李信。」
水素の報告を受けたぐり~んは黒尽くめの少年…李信に向き直る。
「恐らく水素と戦った忍びが報告したんだろう。諸国にお前がこのグリーン王国に居ることがバレた。」
ぐり~んが口惜しそうな表情で伝える。ぐり~んは説明を続ける。
「ガルガイド王国からの使者が先程訪ねてきた。お前の身柄を引き渡せと言ってきおったわ。」
「面倒なことになったな…。」
李信も苦虫を潰したような表情に変わる。
「安心しろ。もちろん断った。お前は俺の民だ。絶対に売るような真似はしない。」
ぐり~んが力強く李信を励ます。
「すまん。この恩は忘れん。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.63 )
「よくやってくれたな水素。当分の間、お前には李信と行動を共にしてもらいたい。万が一ということも考えなければならないしな。」
「分かった。任せろ。」
ぐり~んの頼みに水素が首肯する。
「それとだな。」
「まだあるのか?」
ぐり~んがバツの悪そうに切り出す。水素がそれに応じる。
「領内に謎の化け物か現れた。Bランクのクエストだ。お前達2人で事に当たって欲しい。我が国の騎士は皆国境警備に出払っているからな。お前達だけが頼りだ。詳しくは集会所で聞いてくれ。ではな。」
そう言うとぐり~んは玉座を立って奥の間へと去っていった。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.64 )
ぐり~んの命を受けた水素と李信は集会所に来ていた。集会所には人だかりが出来ている。
「此処がグリーンバレーの集会所だ。此処でクエストを受注してクエストに向かう。」
水素が集会所の椅子に腰をかける。
「なんだその設定。あの某狩りゲームか?」
李信は生前そのようなゲームがあったことを思い出す。
「まあ、そんなもんだな。これがぐり~んに頼まれたクエストだ。」
水素が受注用紙を李信に手渡す。
「Bランククエスト 豚面の破面(アランカル)を倒せ?」
李信が用紙を読む。
「因みにBランク以上のクエストはこの世界でも相当の実力が無いと受注出来ない。この世界の魔力者や能力者にはランクがあることを昨日話したよな?」
水素が説明を始める。
「ああ。」
「身分証を見せてみろ。」
李信が水素に身分証を手渡す。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.65 )
「成る程、お前はSSS(トリプルエス)ランクか。流石だな。」
水素が身分証を李信に返す。
「S~Fではなかったのか?」
ポケットに身分証をしまいながら水素に問う。
「特例でSSSランクとSS(ダブルエス)ランクが設けられる。つまりお前は最強ランクだ。Sランク以上は全てのクエストを受注出来る。良かったな厨二病。」
厨二病という言葉が引っかかるが事実なので否定はしなかった。
「お前のランクはなんなんだ?」
浮かんだ疑問を水素に呈する。
「お前と同じだよ。まあ俺には能力は無いが。それより、あと2人必要だ。メンバーを探すぞ。」
水素がそう言うと立ち上がる。
「あと2人だと?」
「Bランク以上のクエストはメンバーが4人揃わないと始められないんだよ。早く探すぞ。」
「何だその面倒なルールは…。仕方ない。」
李信も水素に続いて立ち上がる。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.66 )
「おいお前ら、パーティメンバーを探してんのか?」
2人に声をかける男が居た。黒色で女かと思うくらい髪を伸ばした痩身の整った顔立ちで、何故か学ランを着ている男である。年齢は2人と近いように見えた。
「そうだが、お前ランクは?」
水素が男に問う。
「それは答えないでおこう。だが少なくともB以上だ。さっきお前らの話を聞いてたんだぜ。国王直々の命を受けた任務とは面白い。俺も混ぜろ。」
「どうする?信用出来るか?」
男の言葉を聞くなり、李信が水素に確かめる。
「今はとりあえず頭数を揃えなきゃいけない。それに本来なら俺1人で十分なクエストだ。頭数さえ揃えば何でもいい。おいお前、入っていいぞ。」
「よっしゃあ!暴れまくるぜ!俺は星屑っていうんだ。宜しくな!」
水素の許可で星屑のパーティ加入が決まった。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.67 )
「星屑だと?お前もこの世界に来てたのか。俺は水素、んでこいつはちょく…直江だ。」
思わぬ知己との再会に胸からこみ上げるものが出てくる。
「おお!お前らマジで水素と直江かよ!久しぶりだなー姿が変わってるから全然分からなかったぜ!」
星屑も再会を喜ぶ。
「久しぶりだな星屑。共に戦えて嬉しいぞ。」
李信も星屑との再会に湧き上がる。
「直江ー、お前のことだから能力はどうせあの漫画のやつだろ?チートスペックじゃねえか。」
「お前の能力も大体予想がつくがな。」
「再会を喜ぶのもいいがあと1人頭数を揃えなきゃならんぞ。」
水素が用紙を左手に持ちながら切り出す。
「でもBランク以上なんて中々居ないぜ?元々この世界の住人となると更に限られてくるしなー。」
星屑がそれに答える。
「それでも見つけなきゃいけないんだよ。国王の命令だからな。」
水素が辺りを見回して探すが、他の連中はもうクエストに向かったのか先程とは打って変わって集会所は空いていた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.68 )
水素は一際目立っている人物に目をつける。ブツブツと独り言を呟いている。
「この世界には敦子たん似の子はいねえなあ。クソッ何で俺は死んだ上にこんな世界に居るんだよ!」
「おいお前、多分小銭だろ?いや多分というか絶対小銭だよな?ランクを教えろ。」
水素が独り言を呟いていた男に近づいて声をかける。
「俺を知ってるとはお前ポケガイ民か?ランクは秘密だぜ!でも多分強いぜ!」
小銭は自信満々で答える。
「じゃあお前もパーティに入ってくれ。お前に拒否権は無い。決定だ。おいお前ら、頭数が揃ったぞ!」
水素か小銭の返答も聞かずに強引に用紙に小銭の名前を記入する。
「やっと揃ったか。これで始められるな。」
水素が用紙を受付の職員に提出すると、職員からの許可が下りる。職員から目的地の地図を手渡され、4人は集会所を後にした。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.69 )
一行が地図を頼りに王都から徒歩で数時間の原生林に辿り着く。
「ここら辺だな豚の化け物が出るってのは。俺が戦うからお前らは見てていいぞ。」
地図を確認しポケットにしまうと水素が他の3人に言う。
「あっ!?ふざけんなよ俺はまだこの世界に来たばかりなんだぞ!?力を試させろ!」
星屑が水素に反発する。
「うるせえ、最強の俺がやった方が早いんだよ!お前らは見てればいいんだよ!」
「まあ待てよ。星屑も小銭も力を試したいだろうし最強なら譲ってやれ。2人が苦戦になったら戦えばいいだろ。」
李信が水素を宥める。
「そうだぞ水素ー!1人だけでやるなんてズルいぞー!」
小銭も便乗する。
「仕方ねえなあ。じゃあ今回は星屑と小銭に任せてみるか。」
水素は渋々李信の言葉を承諾する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.70 )
一行がそれから暫く歩くと大きなクレーターが出来ている場所に辿り着いた。クレーターの中心に何かが居る。
「やっと見つけたぜ。こいつが今回のターゲットだ。」
水素が指差したその何かが此方を向く。
「アンタらグリーン王国の犬ってわけ?私はこれからグリーンバレーを襲撃しに行くのよ!邪魔しないで!」
豚のような形をした仮面を顔に被った化け物が口を開く。
「俺達はその王都襲撃を防げと国王に言われて来たんでな。此処で死んでもらう。」
李信がそう言いつつ後ろに下がる。
「何アンタ?強気なこと言っといてビビってんの?」
「お前の相手は俺じゃない。星屑、小銭。任せたぞ。」
星屑と小銭が前に出て水素は後ろに下がる。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.71 )
「まずは俺が行くぜ!」
星屑が駆け足で豚仮面の破面と距離を縮める。
「そんな動きじゃ私には届かないわよ!」
豚仮面が口から赤い虚閃を放つ。
「スタープラチナ・ザ・ワールド!」
星屑の横に紫色の人型の形をした精神エネルギー…スタンドが具現化する。スタープラチナの能力で世界は灰色に染まり、星屑とスタープラチナ以外の時間が停止する。
「こんなショボいビームじゃ俺は倒せないぜ」
星屑は時間を停止させることで虚閃を避け、豚仮面の至近距離に迫った。
「この時間停止は数秒しかもたない…そして時は動き出す。」
時間停止が解除され、世界は色を取り戻す。
「なっ…!いつの間に此処に!」
「小銭、わりいな!お前の出番は無さそうだぜ!」
「オラァ!オラオラオラオラオラオラオラオラ!オラァ!」
星屑の叫びと共にスタープラチナが豚仮面に怒涛のラッシュを豚仮面に炸裂する。豚仮面の腹部や胸部がスタープラチナの攻撃で凹み、胸部から出血しているのが見えた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.72 )
星屑はトドメだと言わんばかりに最後のパンチを繰り出し、「グハァ!」という悲鳴と共に豚仮面の体は後ろに吹っ飛ばされた。
「やったか?」
「おい星屑。それフラグだぞ。」
小銭が星屑のおきまりのセリフにツッコミを入れる。
「良くも…やってくれたわね!」
小銭の予想通り、豚仮面は息を吹き返して起き上がる。
「だから言ったんだ。そもそもそんな簡単に終わるなら国王はわざわざ命令なんて出さないっしょ。」
「うるせえ!俺はキーレるぞ!」
「俺のネタを使うな!」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.73 )
スタープラチナの攻撃でダメージを受けた豚仮面の体が一瞬の内に再生した。
「あれは…超速再生か。破面は超速再生は出来ない筈だが…。」
李信が豚仮面の超速再生に驚きを見せる。
「星屑には厄介な相手だな。国王が頼んでくるだけのことはある。」
隣に居た水素が冷静に返す。いざとなれば自分がワンパンで倒せばいいだけの話だからである。
「こいつ再生すんのかよ!スタープラチナじゃどうしようもねえぞ!」
「どいてろ星屑!次は俺の番だ!」
小銭が星屑の肩をどけて前に出る。
「再生出来ない傷をつけていけばいいだけの話だぜ!来い、ゲイジャルグ!ゲイボウ!」
小銭がポケットからランサーのクラスカードを取り出し、真紅の長槍と黄色の短槍を出現させ、両手に握る。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.74 )
「行くぞデブ!」
小銭が豚仮面目掛けて突っ込む。
「そんな槍で何が出来るってのよ!喰らいなさい!」
豚仮面の虚閃が小銭を襲う。
「効くかよそんなもんがぁ!」
小銭が赤い長槍で虚閃を切り裂き、虚閃は真っ二つに割れて小銭の横を通ってクレーターに直撃し、地面を更に抉り消滅する。
「このゲイジャルグは魔力を打ち消す宝具だ!そしてこのゲイボウが…」
小銭が黄色の短槍を構えて豚仮面の胸に突き立てる。
「消えない傷を敵につける宝具だ!心臓を突いたぜ!お前は終わりだぁ!」
小銭が豚仮面の胸から血に彩られた短槍を引き抜く。豚仮面は小さな悲鳴を上げてその場で仰向けに倒れた。
「今度こそやったぜ!残念だったな星屑ー、今回は俺の手柄だぜ!」
「お前あのアニメの能力使いだったのか!これで任務完了だな!」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.75 )
「つか、あいつ破面じゃん。魔力じゃなくて霊圧にも効くんだなゲイジャルグの効果。」
星屑が小銭の能力に関心を示す。
「そうみたいだな。おいお前ら終わったから帰ろうぜ!」
小銭が倒れた豚仮面に背を向けて歩き出す。
「馬鹿!油断すんな!まだ終わってねえぞ!」
豚仮面の様子を見ていた水素が大声で警戒を促す。それを聞いた小銭や星屑がパッと豚仮面の方を向く。
「アンタ達よくもやってくれたわね…もう絶対許さない!」
豚仮面が起き上がる。
「俺のゲイボウを心臓に喰らってまだ生きてんのか?どんなチート使ったんだよこいつ!」
「喰い尽くせ 喰虚(グロトネリア)!」
豚仮面が腰に差していた斬魄刀を抜刀して霊圧を込めると、赤色の霊圧の光が豚仮面を包み込んだ。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.76 )
下半身が無数の虚(ホロウ)や変色した人間の塊となった豚仮面が姿を現す。背中には蛾のような羽と無数の触手が生えている。
「嘘だろ…ゲイボウでつけた傷が塞がってやがる!」
小銭は豚仮面の胸につけた傷が無くなっていることに気づく。
「アンタ達は皆殺しよ!黒虚閃(セロ・オスキュラス)!」
豚仮面の無数の触手に黒い霊圧が込められ、一斉に放出される。
「やべえ!スタープラチナ・ザ・ワールド!」
星屑がスタープラチナを出現させて時間を停止させる。星屑は黒虚閃の軌道から逃れた。
「そして時は動き出す。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.77 )
下半身が無数の虚(ホロウ)や変色した人間の塊となった豚仮面が姿を現す。背中には蛾のような羽と無数の触手が生えている。
「嘘だろ…ゲイボウでつけた傷が塞がってやがる!」
小銭は豚仮面の胸につけた傷が無くなっていることに気づく。
「アンタ達は皆殺しよ!黒虚閃(セロ・オスキュラス)!」
豚仮面の無数の触手に黒い霊圧が込められ、一斉に放出される。
「やべえ!スタープラチナ・ザ・ワールド!」
星屑がスタープラチナを出現させて時間を停止させる。星屑は黒虚閃の軌道から逃れた。
「そして時は動き出す。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.78 )
黒虚閃は星屑の横を掠めた。小銭はゲイジャルグで黒虚閃を防ごうとするも、防ぎ切れずに被弾した。
「おい小銭、大丈夫か!」
星屑が黒虚閃を被弾した小銭の無事を確かめるように叫ぶ。
「大丈夫だ。問題無い。…と言いたいところだがダメージヤベェなこれ。」
小銭は上半身の至る所から流血していた。二本の槍を杖代わりにして立っている。
「おいお前ら、そろそろ俺が出るか?」
クレーターの端で待機していた水素が口を出すが、星屑が「まだいい。お前は見てろ!」と返したので待機を続けることにした。
「こうなったらこのアーチャーのクラスカードを使うぜ!」
小銭がランサーのクラスカードを解除し、ポケットから出したアーチャーのクラスカードを具現化させる。
「何よその金ピカ鎧?ふざけてんの?」
小銭の全身を金色に輝く鎧を見て豚仮面は再び黒虚閃を放つ。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.79 )
グリーンバレー国門前 グリーン王国とガルガイド王国の国境付近
「何故国際指名手配犯の身柄引き渡しを拒まれるのですか?奴の存在は今や国際問題、危険人物です。」
金髪ポニーテールの女騎士が国境を警備しているグリーン王国の騎士団長に詰め寄る。
「国王陛下のご命令だ。いくらガルガイド王国の要請と言えど此処はお通し出来ないし、あの少年は我が国民なので渡せないとの仰せだ。」
緑色の甲冑に身を包み、緑色の鞘にしまわれた大剣を背負った騎士団長が堅く道を閉ざす。後ろには数百人の騎士が従っている。
「貴殿、ガルガイド王国第二騎士団長のエリス・グリモワール殿だな。貴殿はあの少年に深傷を負わされて取り逃がし面目を失ったと聞く。私怨で執着するとは騎士の風上にも置けないぞ。」
「これは私怨ではありません、任務です。国王陛下にグリーン王国に居る国際指名手配犯の身柄確保を命じられています。速やかにお引き渡し下さいますよう、国王陛下にお取り次ぎをお願い致します。」
「何度取り次いでも陛下のお考えは変わらない。お引き取り願おう。」
エリスは一時退却を配下数百人の騎士に命じ、付近の丘で陣を張り野営することに決めた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.80 )
グリーン城 王の間
「ガルガイド軍の一隊が国門から退却し、付近の丘で野営を始めました!」
「ご苦労、下がって良い。」
「ハッ!」
伝令兵がぐり~んに報告し去って行く。
「これは威嚇ですな。李信の身柄を引き渡すまで奴らは帰らないつもりですぞ。それにあの団長は李信のせいで面目を失っていますから必死でしょう。」
「だからと言って李信を渡すわけにはいかん。ガルガイドもしつこいなぁ。」
ぐり~んがぐり~ん2号の話にため息をつく。
「奴らは暫く根負けしないでしょう。国境に近い王都に李信を居させるのは危険なので遠くの化け物退治を命じたのは英断でしたな。しかしこのままというわけにはいきますまい。」
ぐり~ん2号がこの状況を危惧している。
「李信には水素がついているし、更に追加で奥地での任務を与えるつもりだ。結局その場凌ぎにしかならないが。」
「陛下、私に考えがあります。」
ぐり~ん2号が道を貸せとジェスチャーするのでぐり~んが耳を傾ける。
「成る程、それは名案だな。早速手配してくれ。」
ぐり~んは相槌を打つ。「畏まりました。」とぐり~ん2号は王の間を退出した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.81 )
ガルガイド王国 王都ガルドリアのBAR
「団長は俺の力は知ってる筈だ。なのに俺に王都に留守番を命じたんだ…!俺は側で支えたい、戦いたいのに…。」
エイジスがカウンターに項垂れながら愚痴を呟いていた。
「だってアンタ、あの黒尽くめの指名手配犯に相当の恨みがあるんでしょー?アンタが行ったら無理矢理国境を突破して暴走するかもしれないってエリスさんは思ったんじゃないかしら?」
金髪ショートボブでメイドコスという格好をしたのBAR店主の少女が呆れた表情でエイジスの愚痴を聞いている。
「聞いてくれリーナ!俺はあの野郎を今すぐ八つ裂きにしてやりたいんだ!でも暴走なんてしない!俺は団長を助けたいだけなんだ!それにあの男は世界平和の害になる!」
「あーはいはい分かった分かった。こんな昼間からお酒浴びるように飲んで酔い潰れてアンタどうしようもないわね。」
エイジスは酔いが回ってその場で眠ってしまった。リーナと呼ばれた少女がカウンターを出てエイジスの背後に回る。
「ねえ咲。こいつもう動けないから上で寝かせるわ。運ぶの手伝ってくれないかしら?」
「うん。仕方ないねーエイジス君は。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.82 )
咲と呼ばれた茶髪癖っ毛の少女が足を、リーナが胴体をそれぞれ抱えて階段を登り、エイジスを2階へと運ぶ。
「これでよしっと。」
2人がエイジスを個室のベッドに寝かせ、リーナがエイジスに毛布をかける。
「団長団長ってエリスさんのことばかり。私のことも見て欲しいわ。私だって女の子なのに。」
エイジスの寝顔を見て不満そうにリーナが呟く。
「あはは…。エイジス君はリーナさんのことも気にかけてると思いますよ。そうでなければこうして気軽に愚痴を吐きに来たりしません。」
咲が苦笑しながらリーナを慰める。
「それはそうだけど…そういうのじゃなくて…」
「愚痴相手や友達としてじゃなくて女の子として見て欲しいってことですよね?」
「…。」
咲の問いにリーナは口を閉じて俯く。数秒置いてからゆっくり口を開く。
「アンタだってこいつのこと好きなんでしょ。隠してても分かるわよ。アンタはこれでいいの?」
「それは…」
気持ち良さそうに眠りについているエイジスを横に、部屋には重い空気が流れていた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.83 )
グリーン王国領 原生林
「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」
小銭が異次元空間にある宝物庫を無数に展開すると、それぞれから宝剣の宝槍が姿を表す。
「喰らえ!」
無数の剣と槍が一斉に射出され、豚仮面の黒虚閃を打ち消して全身に突き刺さり、血飛沫が舞い上がる。
「王虚の閃光(グランレイ・セロ)!」
攻撃を受けて怯むも、豚仮面はすぐさま反撃に出て触手から無数の巨大な虚閃を放つ。
「ザ・ハンド!」
星屑が別のスタンドを召喚して空間を削り取り、小銭を豚仮面の攻撃の軌道からずらした。
「助かったぜ星屑!」
「安心するのはまだ早いぞ。マジシャンズレッド!」
星屑が赤い鳥人のスタンドを呼び出す。
「クロスファイヤーハリケーン!」
マジシャンズレッドが十字に固めた炎の塊を豚仮面に放って命中すると、豚仮面を爆炎が包み込む。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.84 )
豚仮面の皮膚が焼けただれていく。あまり熱さと痛みに甲高い悲鳴を上げる。
「キラークイーン!」
星屑が体の各所に髑髏を象った猫型獣人のスタンドを呼び出す。
「シアーハートアタック!」
キラークイーンが髑髏の顔を持った小型の戦車を出現させる。「こっちを見ろ」と低いエコーがかかった声を発し、クロスファイヤーハリケーンで熱を帯びた豚仮面に向かっていく。
「何よその変な戦車!」
無数の触手から黒虚閃で破壊しようと試みるが効いていない。
戦車は豚仮面の下半身の無数の顔の部分に張り付き爆発した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.85 )
「今だ!」
下半身は爆発するもののすぐに再生する。しかし豚仮面が攻撃を受けて仰け反った隙をつき、星屑は豚仮面に接近した。
「このキラークイーンは触れた対象を爆弾に変える!終わりだ豚野郎!」
キラークイーンが豚仮面の腹に触れる。
「逃がさない!」
豚仮面が触手で星屑を捕まえようと伸ばすが、無数の触手は飛んできた剣により切断される。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
剣を飛ばしたのは小銭のゲート・オブ・バビロンである。
「死ねやぁぁぁ!」
星屑がキラークイーンの指のスイッチを押すと、豚仮面の体は大爆発を起こし、木っ端微塵に砕け散った。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.86 )
「今度こそ死んだな。」
星屑が爆発で木っ端微塵になった豚仮面の化け物の破片を見やる。
「アンタ達、このアタシに勝てるとでも思ってるの!?」
エコーがかかった豚仮面の声に星屑と小銭が驚きで目を見開く。
爆散した体の破片が一箇所に集まり見る見る内に豚仮面が再生した。
「なんなんだこいつ!殺した筈だぞ!」
星屑が豚仮面を睨みつける。
「…そうか!分かったぞ!」
後ろで口を開いたのは水素である。何かを閃いたようだ。
「その豚野郎は確かに死んだ。小銭のゲイボウとゲート・オブ・バビロン、星屑のキラークイーンの攻撃で既に3回死んだんだ!」
「どういうことだよ水素!?」
小銭がわけが分からんという顔を作る。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.87 )
「奴の下半身の無数の顔だ!奴は1回死ぬ度に顔の数が1つ減っているのを見た!奴は今まで食った相手の命を取り込んでるんだ!その顔の数だけ殺せば奴は死ぬ!」
水素がクレーター全域に響き渡る大声で自ら辿り着いた答えを叫んだ。
「しかし原作の喰虚(グロトネリア)は喰った虚(ホロウ)の力を得て強化・進化する能力だけだ。」
水素の隣に居た李信が生前に某漫画を読んだ記憶を思い出して説明する。
「奴はその更に上を行く進化を遂げたんだ!」
「水素、アンタ目も頭もいいわねぇ!正解よ!けど、私が喰った相手の数は54829人!アンタ達は私には勝てない!」
豚仮面が羽を使って空高く舞い上がる。
「クソッ!どうやって5万回も殺すんだよ!宝物庫の剣にも魔力にも限りがあるのに!」
小銭が絶望で絶叫する。
「まだこの世界に来たばかりで全てのスタンドを使いこなせるわけじゃねえ!こいつはやべえぜ!」
星屑も勝つ希望を失って青ざめていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.88 )
「無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)」
豚仮面の触手に赤い霊圧が込められると、触手の一本一本から無数の虚閃が連射される。
「範囲が広過ぎて…避けきれねえ!」
降り注いでくる虚閃を前になす術も無く立ち尽くす星屑だったが、星屑の前に小銭が飛び出す。
「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」
もう一枚のアーチャーのクラスカードを使って変身した小銭が7枚の光の盾を作り出し、折り重ねて花弁のような形に展開させて無数の虚閃を受け止める。
「小銭!」
「俺も一瞬諦めたけど、やっぱ諦めちゃ駄目だ星屑!」
「無駄よ!そんなものを出しても私の攻撃は防げない!」
光の壁は虚閃の連射を受けて一枚、また一枚と破壊されていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.89 )
(クソッ!ザ・ワールドを使っても止められるのは数秒だけだ!それに数秒でこの広い範囲から外れて逃げ切れるわけがない!この状況じゃザ・ハンドを使っても対応が追いつかない!)
「クッ…うおおおおおお!」
小銭は必死で虚閃を受け止めているが、光の壁は次々に破壊されて最後の一枚になった。
「もう駄目だぁぁぁ!!!」
星屑が死を予感して叫びを上げた時である。突然虚閃の連射が止み、豚仮面の体は宙で吹っ飛ばされていた。
「!」「!」
星屑と小銭が驚いて宙を見上げると、空高く跳躍して豚仮面に拳を叩き込んだ水素の姿があった。
「星屑、小銭!お前達は強い!凄く強い!だがお前達はこいつとは相性が悪い!こいつは俺がやる!」
下の星屑と小銭に聞こえるように大きな声を出す。
「結局最後はあいつが美味いところをもっていくのかよ…けど助かったぜ…。」
「あの豚野郎は俺達の手には負えない。俺達は十分戦ったんだし休もう。」
星屑と小銭は命が助かった安堵と勝てなかった悔しさを胸に、李信が居るフィールドの恥まで下がった。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.90 )
「2人とも大奮闘だったな。奴はどうだった?」
李信がほうほうの体で隣まで来た2人を讃える。
「自分の力を過信し過ぎてたよ。俺が最強なんだと信じて疑わなかったからな。」
「俺も星屑と同じだよ。それがこの有様だ。ところでお前は某漫画の能力や技を全て使えるんだろ?ならあいつと同じことが出来るんだよな?」
星屑と小銭は自分の甘さを思い知った。
「喰虚(グロトネリア)は使えるが俺は1人も喰ってないし奴みたいに命が沢山あるわけでもない。奴は特別だ。」
「やっぱり最後は俺が出てこないといけないみたいだな。ヒーローは遅れて登場するってやつだ!決着をつけるぜ豚野郎!」
下で3人が言葉を交わしている間に豚仮面は再生を使って水素の目の前まで舞い戻ってきていた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.91 )
「さっきの2人もアンタもアタシのことを豚豚五月蝿いのよ!いいわ!そんなに美人が好きなら存分に見せてやるわよ!」
そう言うと豚仮面を赤い霊圧が覆う。
「へえ。変身も出来るのか。随分可愛くなったじゃねえか。でも可愛くなったからって俺は情なんて持たないし容赦しないぜ。」
水素の前に姿を現したのは、銀髪ロングで騎士の剣を携えた美少女だった。
「アタシの刀剣解放は喰虚(グロトネリア)。喰った相手の命と能力を取り込むことが出来る。こうして取り込んだ奴の姿にもなれるのよ!確かこいつはガルガイド王国のレイン・ヴァントニルとかいう女騎士だったわね。」
「じゃあお前を殺さないとその美少女の供養は出来ねえなあ!」
跳躍は出来ても飛行は出来ない水素は一度地に着地して豚仮面…ではなく銀髪の美少女騎士に再び跳び上がる。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.92 )
「極大魔法 ホーリー・サンクチュアリ!」
銀髪美少女の持つ剣から聖なる光が発せられ、光は広がり結界となった。
「このフィールド全体が私を強化する結界よ!受けてみなさい!セイント・クロス・エンフォース!」
美少女の剣から放たれた眩い光の斬撃が十字の形になって水素に張り付く。
「神の聖なる裁きを受けなさい!」
十字架に張り付けられた水素を無数の光の十字剣が取り囲む。
「アンタに判決を下すわ!判決は…死刑よ!」
無数の光の十字剣が水素に襲い掛かる。無数の十字剣が大きな光に破裂する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.93 )
「効かねえんだよ!」
「そんな!これで死ななかった奴は居ないのに!」
水素が光を振り払って拳を握り締めて美少女目掛けて再度跳躍する。
「連続普通のパンチ」
水素が高速で連続パンチを美少女にお見舞いする。美少女の顔面や体は原型をとどめない程に変形して吹っ飛ぶ。しかしすぐに鎧や衣服といった装備ごと再生して水素に向かって飛び掛かる。
「はああああああ!」
聖なる光を纏った剣で目にも留まらぬ速さで着地した水素を連続で斬り付ける。が、水素には傷一つついていない。
「そんな!無傷なんてことが!」
「連続普通のパンチ」
水素が容赦無く連続パンチを美少女に叩き込む。美少女の鎧を貫通し、水素の右腕は心臓を貫いた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.94 )
美少女は光の魔力力場を足下に発生させて後ろに下がり再生する。次に、美少女は無数の魔力力場を結界内で展開させ、力場と力場の間を瞬間移動し始めた。
「へえ、速いじゃねえか。」
「余裕で居られるのも今の内よ!アンタにこのスピードについて来られるかしら!」
力場間を瞬間移動しながら剣先から聖なる光の光線を放ち続ける。
「ちょこまか鬱陶しい蝿みたいな奴だな。」
「マジ反復横跳び」
水素が凄まじい速さで反復横跳びを始める。あまりの速さに美少女は追いつくことが出来ず、光の光線も全く命中しない。
「なんて速さなの!?追い付けない!」
力場間瞬間移動を続ける美少女の腕をマジ反復横跳びをしている水素が捕らえた。
「つーかまーえた。」
「しまった!」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.95 )
水素が美少女の腕を掴んだまま地面に思い切り叩きつけると、クレーターにヒビが入り、それが広がって跡形も無くなり地形は瓦礫の山に変貌する。水素は仰向けに倒れた美少女の腹に馬乗りになった。
「これでもう逃げられねえな。魅力的なシチュエーションだが正体が豚野郎だと思うとアソコも萎えるぜ。お前に需要はねえ。」
「でも至近距離でこれを受けたらアンタはどうなるかしら!?」
両腕の拳を美少女に向けて構える水素に、美少女は口から黒虚閃を吐くが水素には全く効かなかった。
「終わりだ豚野郎。てめえが死なねえとその美少女も成仏出来ねえだろ。」
「ヒッ…ヒィィィィ!!」
「両手・連続普通のパンチ」
両手で繰り出される水素の拳が連続で美少女の頭部に炸裂する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.96 )
「アッアグォ…ヴォェ…アガッ…ガハッ…ゲヴォァ…!」
水素の高速ラッシュは容赦無く続く。一発一発が顔面や脳を破壊し肉片が飛び散るもその度に超速再生を繰り返すが再生が追いつかない。
「まだまだぁ!5万回以上殺さないとだからな!」
水素は手を休めない。普通なら美少女の顔面や脳が破壊され血や肉片が飛び散る光景などトラウマを抱えるレベルであろうが、正体はあの醜い豚の破面(アランカル)であることを考えると水素には一切の躊躇は無かった。
「不細工な!豚野郎如きが!美少女の!姿を!使うな!」
「アガッ…オエッ…アッ…ガバァッ…!」
水素の両手・連続普通のパンチは54822回続いた。
「お前の命、あと一つだな。」
「待って…!命だけは…!命だけはぁぁぁ!!」
美少女は水素の下敷きで命乞いをする。
「分かった。もう俺はやめてやるよ。これに懲りたら二度と悪さすんなよ?」
水素は美少女に馬乗りになっていた自分の体を立ち上がってどける。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.97 )
「あ、ありがとうございますぅぅぅ!」
だが、次の瞬間、起き上がろうとする美少女の両腕と両脚に飛んできた剣が刺さり、美少女は地面に血を流しながら張り付けにされた。
「なっ…!」
「良くもさっきはやってくれたなオイ!まさか逃げられるとは思ってねえだろうなあ!?」
声が聞こえた方向を美少女が向くと、アーチャーのクラスカードを使い全身を金ピカの鎧に身を包んだ小銭が立っていた。
「話が違うじゃない!」
「確かにやめると言ったよ。俺はな。」
水素は冷たく言い捨てるとツカツカと歩いて離れていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.98 )
「わ、私は…!可愛くなりたかった!生前だって不細工でデブでうだつが上がらなくてそれは辛かったわ!そしてこの世界に生まれ変わっても可愛くなるどころかもっと醜くなってた!でも私はこの力を手に入れた!この力さえあれば強くもなれるし可愛くもなれる!私はやっと理想の自分を手に入れたの!アンタ達なんかに…このみさくらぽんこつの何が分かるのよ!」
みさくらは四肢に走る激痛と悔しさで涙を流した。
「だがそれはてめえの可愛さじゃねえ。てめえが殺して奪った可愛さだ。てめえは自分勝手な理由で罪もねえ奴の命を奪った。それは決して許されることじゃねえ。」
小銭が見下すような表情でみさくらを睨み据える。
「待って!命だけは助けて!アタシお金もいっぱい持ってるのよ!だから!」
みさくらは命乞いをするが、此処に居る誰の心にも響かない。
「てめえのツケは 金では払えねーぜッ!」
みさくらに近づいてきた星屑がスタープラチナを具現化させた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.99 )
「オラァ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!オラァ!」
スタープラチナの怒涛のラッシュが炸裂し、みさくらの体は再生が追いつかず木っ端微塵になった。
「ツケの領収書だぜ。」
星屑がみさくらの罪状を書いたメモをみさくらの肉片がある辺りに破って捨てた。
「終わったな。」
小銭が呟く。
「ああ。やっと終わった。みんな帰ろうぜ。」
星屑がそれに答える。
「そうだな。集会所にクエストクリアの報告に行こう。」
水素が先頭で王都がある方向に歩き出す。李信は黙ったままだった。
4人は激戦を繰り広げた原生林を後にした。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.100 )
グリーン王国 王都グリーンバレーのクエスト集会所
「クエストクリア おめでとうございます!」
受付の職員がクエスト用紙に判子を力強く押す音が響く。時刻は既に午後11時を過ぎ、日付を跨ごうとしていた。
「こちらが報酬になります!」
職員が引き出しから通貨や札束をクエスト用紙と引き換えに水素に手渡す。
「100000Z(ゼニー)も貰ったぞ!」
水素が貰った報酬を他の3人が集まるテーブルにバンッと叩きつけるように置く。
「じゃあ、25000Zずつに分けようぜ!」
「おう、それでいいんじゃね?」
小銭の当然の提案に水素も賛成する。
「待てよ。このクエスト、何もしてねえ奴が1人居るぜ。」
星屑が向かい側の席に座っているその人物を睨むように見据える。
「あっ…確かに。こいつだけ何もしてねえじゃんそう言えば。」
ハッとした小銭もその人物の方を向いて言う。
その何もしていない人物とは、紛れも無く李信のことである。
「…。」
2人の視線を浴びた李信はただただ黙りこんでいる。
「まあまあ。こいつだって俺らと一緒に何時間も歩いたんだ。それに先に自分の力を試したいと言って俺と直江を下がらせて戦ったのはお前らじゃん。そうだろ?星屑、小銭。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.101 )
水素が2人を宥めようとする。
「俺達2人は必死に戦った。窮地に陥って水素は俺達を救ってくれた。水素のお陰で勝てた。だが直江だけはマジも何もしてねえだろ。それなのに分け前を貰うなんてズル過ぎねえか?」
星屑は右手を目と水平の方向に開いて言う。
「お前ら2人が力を試したいと言うから下がった。お前らの窮地にも俺だけで充分だと判断した。だから直江は戦わなかった、出番が無かった。元はと言えばお前らが戦いたいから邪魔をするなと言ったからだ。直江、お前も何とか言え。」
「その通りだ。」
水素のフォローに李信が静かに答える。
「大体お前ら、俺が居なきゃ今頃生きてねえぞ?こうして帰ることも報酬を受け取ることも出来なかった。だから俺の言うことを聞け。分かったか?」
「チッ仕方ねえな。」
「分かったよ。」
星屑と小銭が水素の言うことを渋々承諾し、報酬は4等分に分けられた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.102 )
翌日 ガルガイド王国 王都ガルドリア ガルドリア城
エイジスは国王に呼び出され、拝謁していた。
「表を上げろ、エイジス。」
国王の言葉でエイジスが顔を上げる。
「あの指名手配犯だがな、グリーン王国に匿われている。」
「存じております。」
エイジスはエリスに待機を命じらた時のことを思い出し、重い表情で答える。
「他の騎士団にも出陣の命を下した。お前も第二騎士団に合流し、グリーンバレーの国門前で野営せよ。此度は私も出陣する。グリーン王国に最後通告し、指名手配犯の身柄引き渡しに応じなければグリーン王国へ攻撃する。」
「ハッ!」
国王が力強い声でエイジスに命令を下す。
「奴を捕らえるのはお前だ、エイジス!」
「お任せを!此度こそは必ずや!」
エイジスは胸躍る思いだった。憎きあの黒尽くめの男にこの手で引導を渡す日が近づいたのを確信したからである。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.103 )
グリーン王国 グリーン城
「申し上げます!ガルガイド軍総勢3万がこの王都グリーンバレーに向けて出陣!ガルガイド王国は指名手配犯の身柄引き渡しを要求しています!」
グリーン城は騒然となった。ガルガイドの大軍がグリーン王国に押し寄せてきたのである。
「陛下、如何なさいますか!」
ぐり~ん2号がぐり~んの指示を仰ぐ。
「止むを得まい。戦だ。国門に今動かせる全軍を集結させろ!それと、李信と水素を呼べ。」
「はっ!」
伝令兵は王の間を退出する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.104 )
ぐり~んに呼び出された李信と水素は王の間でぐり~んに謁見した。
「昨日のクエストでは良くやってくれた。状況は聞いているな?」
「ああ。」
李信が短く頷く。
「お前達には新たなクエストをやってもらう。お前が王都に居てはお前に危険が降りかかるのだ。」
「断る。」
「何!?」
「俺を捕らえる為の派兵、それも国王自らの親征と来た。全軍を差し向けるならあのフェンリルも来るだろう。今度こそ決着をつけてやる。それに、新たな力も手に入れたしな。」
李信はぐり~んの命令を拒絶し、フェンリルを倒すことを違う。
「心配無用だぐり~ん。俺がついてる。」
水素が前に出る。
「分かった。許可しよう。だが無茶はするなよ。」
2人はそれには答えずに城を出た。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.105 )
ガルガイド軍はグリーン王国国門付近の丘で野営していた第二騎士団と合流し陣を張った。総勢3万の大軍である。
これに対してグリーン軍も12000の兵で国門の守りを固めた。
「よう直江。また会ったな。」
グリーン軍の陣に加わり野営する李信に小銭が訪ねてくる。
「お前か。何でお前が此処に?」
「俺の力でガルガイドのカス共をぶっ潰してやるのさ。」
「昨日の件で学んだだろ。あまり自分の力を過信するな。」
「まあ任せろって。」
李信は小銭に忠告するが、小銭には届かない。自信に溢れた顔をしていた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.106 )
「俺も居るぞ。」
星屑が幔幕をくぐって入ってくる。
「昨日ぶりだな星屑。」
星屑に水素が声をかける。
「いやーしかし面白くなってきたなー!」
「お前も昨日の件で何も学んでないのかよ…。」
水素が星屑に呆れていると、幔幕内に伝令兵が入ってくる。
「ガルガイド軍は最後の通告として李信殿の身柄引き渡しを要求してきました。ぐり~ん国王陛下はこれを拒否致しました。」
「戦か。」
「いつでも戦に対応出来るように支度せよとのことです。」
「…俺を国門の上まで案内してくれ。」
李信が立ち上がり歩き出す。伝令兵は首肯して李信を案内する。他の3人もこれに続く。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.107 )
「拡声器はあるか?」
「はっ!これに!」
国門の上で伝令兵が李信に拡声器を手渡す。
「聞こえるか!ガルガイドのゴミ共!」
拡声器で李信の声が辺り一帯に鳴り響き、ガルガイド軍の将兵達はそれに反応してざわめく。
「そんなにこの俺を殺したくば来い!皆殺しにしてやる!」
「あの野郎…」
エイジスが李信の声に反応する。
「特にフェンリル!先日は殺し損ねたが今日こそ決着をつけてやる!俺は逃げも隠れもしない!貴様も出てこい!」
「団長、俺行きます。奴を捕まえるのは俺しか居ません!」
「ええ、奴を捕まえられるのは貴方しか居ないわ。頼んだわよ。」
李信の声に反応したエイジスがエリスの許可を得る。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.108 )
「第三軍までに攻撃命令を出せ。」
ガルガイド国王が伝令兵を通じて突撃命令を下した。
「かかれー!」
命を受けたガルガイド軍が第一騎士団率いる5000から動き出す。それに続いて第二騎士団率いる5000と第三騎士団率いる3000が国門目掛けて突撃を始めた。
「この黒尽くめ野郎ー!」
エイジスは1人絶大な膂力で李信目掛けて跳ぶ。
「来たかフェンリル!今日こそ貴様を殺す!」
李信が抜刀してエイジスを待ち構える。
「他の雑魚は俺に任せな!」
小銭がライダーのクラスカードを発動し、出現した宙に浮かぶ二頭の黒馬に引かれる馬車に飛び乗り、赤いマントを身につけて腰の剣を抜く。
「王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!」
小銭が剣を天に掲げると、固有結界により辺り一面が砂漠と化す。小銭の背後には彼に従う無数のマケドニア軍が出現していた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.109 )
小銭がマケドニア王イスカンダルの銀色に輝く甲冑に身を包む近衛兵団を召喚し、辺りは固有結界が作り出す心象風景である砂漠・荒野が広がる。
「蹂躙しろ!」
小銭の号令で大地を覆い尽くす銀色の塊が波打つようにガルガイド軍に押し寄せる。
「な…なんだこれは…!突如多数の敵の援軍が…!ええい怯むな突っ込めぃ!」
第一騎士団の団長が剣を振り翳し先頭切って銀色の塊にその身を投じる。
「ガハァッ!」
低い悲鳴を上げながら団長が落馬する。胸を槍で貫かれていた。
「この軍勢は将兵1人1人が魔力を持つ無双の軍勢だ。蟻が3万匹集まって向かって来ようと踏み潰すのは赤子の手を捻るようなもの。」
マケドニア軍が雄叫びを上げながら指揮官を失い指揮系統が麻痺したガルガイド軍の先鋒を押し戻し、逃げ散る敵兵を容赦無く突き伏せていく。
先鋒部隊の混乱は攻撃命令を受けてグリーン軍に突撃せんと移動を始めた第二軍と第三軍にも波及し、大混乱に陥った。
先鋒部隊を散々に打ち破ったマケドニア軍が獲物に追い縋る獣の如く第二騎士団率いる第二軍に迫り来た。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.110 )
「怯むな!今こそ我ら王国騎士団の力の見せ所!国王陛下への忠義を示し、蛮族共を討ち滅ぼすべき時!命を惜しまず名を惜しめ!」
迫り来るマケドニアの大軍を前に第二軍を率いるエリスが剣を掲げて将兵を鼓舞する。
「オォォォ!」という猛りが荒野に満ち、第一軍壊滅の混乱により徴兵された兵の多くが逃亡し半数となったとは思えない士気の高ぶりを見せた。
「いいぞお前らー!そのままやっちまえー!皆殺しだー!」
小銭が第一軍壊滅の光景を後方から眺めて馬車から身を乗り出す。
しかし稲妻のような光がマケドニア軍の先頭に落ち、一気に数十人のマケドニア兵が倒れて動かなくなる。
「私はもう、失敗するわけにはいかない!」
エリスの魔法によるものだった。マケドニア軍のワンサイドゲームだった戦の様相が一変した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.111 )
一方国門があったところでは、李信とエイジスが剣戟を繰り広げていた。
「この野郎!」
エイジスが背中から二本の短剣を抜いて迫る。
「ふんっ!」
斬魄刀を抜刀した李信が解放しようと刀に霊圧を込めようとした時である。エイジスと李信の間に目にも止まらぬ早さで1人の影が割り込んだ。
「!」
エイジスの短剣はその影の胸を捉えていたが、あまりに頑丈な体は擦り傷一つついていない。影の主とエイジスはそのまま地に足を着けた。
「はいはーい!こいつを殺したいんだろうけどそうはさせないよー!」
影の主は水素であった。
「てめえ何者だ!何故邪魔をする!」
「趣味でヒーローをやっている者だ。それとこいつを殺させるわけにはいかないんでな。これも王命なんだわ。」
「お前!」
エイジスと決着をつけようとしていた李信は水素の介入を快く思わなかった。
「そう怒んなよ。お前には今ぐり~んから別の命令が下ったぜ。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.112 )
「別の命令だと?」
「小銭の軍が苦戦し始めたから指揮を執れってさ。だからこいつの相手は俺が引き受ける。」
「戦闘に加わるんじゃなくて指揮を執れだと?」
「そうだ。分かったらさっさと行け。」
「チッ!」
李信は舌打ちするとグリーン軍の本陣に下がっていった。
「待て!逃げんのか!」
エイジスが下がっていく李信を追おうと跳び上がる。
「お前の相手はこの俺だ。」
水素がエイジスの腕を宙で掴むと地面に投げ飛ばした。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.113 )
「小銭、今すぐこの心象風景を解除させろ。」
指揮を執れとの命令で本陣に行き他の指揮官と命令の真偽や作戦を確かめ合った後、マケドニア軍を操る小銭の所へ李信は来ていた。
「え?何でだよ。この広い荒野の方が俺の無双の大軍を動かすのにいいだろ!」
「いいから解除しろ!お前の軍はあの女騎士によって押され始めている!お前はやっちまえだの殺せだの喚いてるだけで話にならない!」
「チッ仕方ねーなー。でもこいつらは俺にしか操れないぜ?」
「俺がお前に指示を出すからお前はそれを自軍に命令しろ。」
「分かった分かった。まずはこの心象風景の解除だな?」
小銭はマケドニア全軍に命令し、自らも魔力をもって心象風景を解除した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.114 )
心象風景が解除され辺り一面の景色、地形は元に戻る。
「よし、それでいい。次は軍を後退させろ。」
「何考えてんだお前?まあいいけどよ。おいお前ら!一時退却だー!」
小銭が軍に一時退却を命じると第二軍に正面から、第三軍に側面から押されているマケドニア軍は素早く向きを変えて国門に向けて退却する。
最前列となっていた部隊は殿に転じ、エリス達の剣戟や魔法を懸命に食い止めながら退却を図る。
「敵は退いたぞ!このまま追撃せよ!」
第二軍を率いながら先頭切ってマケドニア軍を斬り伏せているエリスが剣を前方に振り下ろし、敵の退却により勢い付いた自軍に反撃を命じる。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.115 )
「よし、俺達も門まで退くぞ。」
「敵が勢いづいちゃってんじゃん。ホントに勝てるんだろうなあ?」
「俺が勝たせる。お前は俺の言う通りにしてればいい。」
「ったく偉そうに。分かったよ。低学歴の癖に賢ぶりやがって。」
小銭が乗っている馬車に李信も同乗し、小銭は二頭の黒馬の手綱を引くと馬車が反転して走り出す。それを追うように国門目指して退却するマケドニアの大軍が続く。
「このまま一気に国門まで迫り、国門を破って王都に雪崩れ込んでグリーン城を落とす!そして黒尽くめの男を捕らえる!この歴史的大戦に名を刻め!行くぞ!」
エリスの鼓舞で更に第二軍の士気は向上し、マケドニア軍の側面を攻撃していた第三軍、更には第一軍の敗残兵と合流して追撃を続ける。その数、後詰めに差し向けられた第四軍と合わせて20000。
マケドニア軍の殿部隊は懸命に防戦するが、エリスの剣術や魔法、勢いづいたガルガイド軍の前に1人また1人と屍を晒しながら逃げていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.116 )
小銭のマケドニア軍がガルガイド軍の追撃を受けながら国門前までの撤退を完了した。
「国門は目の前だ!一気に敵を蹴散らして王都に雪崩れ込む!」
エリスを先頭に勢いに乗るガルガイド軍が国門に迫る。
「馬鹿が。罠だとも知らずにノコノコと追って来たな。」
小銭の馬車に乗りながら李信が右手を挙げて合図を送ると、国門の左右に切り立った崖から無数の巨大な岩石がガルガイド軍に降り注いだ。
「これは…!しまった!図られた!」
先頭に居たエリスが青ざめる。自分は敵の術中に嵌っていたのだと気づくが、全ては遅過ぎた。
優勢だと思っていた戦況が一変、そこは共に労苦や喜びを分かち合ってきた騎士や兵達が断末魔を上げながら岩石に押し潰され、血の川を流しながら肉塊に変わっていく地獄絵図と化した。
「ひ、怯むな!このまま突撃し敵を突破し王都に攻め入る!続け!」
残った兵で突破を試みるも、目の前には驚きの光景が広がっていた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.117 )
予め地面に埋めてあった馬防柵が、グリーン軍により紐を引かれて立ち並び、何処から手に入れたのか、馬防柵からはグリーン兵達がつがえた火矢が顔を覗かせていた。
更に、左右の崖からは樽が大量に投げ入れられ、ガルガイドの将兵達に命中し、破裂して油がぶち撒けられる。
エリスは体の震えを抑えられなくなる。これから起こる更なる地獄が脳裏に浮かび、彼女を金縛りにした。声が、出ない。
第二軍、第三軍は岩石によりこの場で最も兵力の多い第四軍や遥か後方の第五軍と国王の本軍、更に戦の最中に後詰めとして参陣した第六軍とも完全に分断されている。つまり、助けは来ない。
「やれ!」
李信の命令で正面と左右の軍が一斉に大量の火矢をガルガイド軍に放った。火矢は着火し、爆炎となって天高くキノコ雲のように舞い上がる。ガルガイド軍の断末魔が戦場に木霊した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.118 )
マケドニアとグリーンの軍の前に、夥しい数の焼死体と圧死体が転がる。
「こ、こんな…ことが…!」
声を震わせて呆然とするエリス。彼女は軍の先頭に居た為辛うじて圧死も焼死も免れたが、自らを守る100人ばかりを除いてガルガイド軍の第二軍と第三軍は全滅した。エイジスは水素と戦闘に入っている為、これを救うことは出来なかった。
「奴が第二軍の大将だ!討ち取れ!」
李信の号令で正面のグリーン軍が槍を持って一斉に襲い掛かった。
「お前らも行け!やっちまえ!」
小銭の命令を受けたマケドニア軍も残り僅か100人余りの第二軍に向かっていく。
総勢4万の兵が、エリス達を囲み迫る。
「クッ!こうなればいっそ華々しく散るまでよ!皆、一人でも多くの敵を討ち取り、国王陛下への忠義とするのよ!」
死を悟った100人の精鋭が、最後の戦いに挑もうとしていた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.119 )
「小銭。」
「何だよ。」
「策はまだある。」
「何?まだあんのか?」
李信と小銭が2人で馬車に乗りながら眼前で繰り広げられる戦いを悠々と眺めている。敵将の女騎士とその精鋭達は剣と魔法を駆使してその強さを存分に発揮してグリーンとマケドニアの軍を次々と倒していくが、もはや時間の問題である。
「岩石で分断した第四軍の背後をグリーン軍1500に突かせる。」
「第四軍の兵数は5000以上残ってるぞ?1500じゃ負けるだろ。」
「勝ちに乗じて士気の高いグリーン軍と目の前で味方を壊滅させられたガルガイドの第四軍では天地の差がある。それにこの目的は第四軍の殲滅ではなくあくまで引き付けだ。」
李信が珍しく頭を使って説明している姿に小銭は関心する。
「残り8000のグリーン軍を左前方の林に派遣した。」
「おいそれってまさか!?」
「今頃その8000は国門の左手にあるグリムリ山を迂回して密かに丘の麓付近に迫っているだろう。手薄になったガルガイド本軍を奇襲しガルガイド国王の首を挙げる!」
「マジかよ!?お前低学歴のゴミ野郎だけど少し見直したぜ!」
小銭が李信に聞いた策を聞いて歓喜する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.120 )
「我が軍が…壊滅しただと…」
ガルガイドの本軍が陣を張る丘。ガルガイド国王は壊滅させられた報を伝令兵から聞き、絶句した。
兵力ではグリーン軍を上回っていた筈である。それが謎の大軍の出現と何者かの采配によって国王が描いていた精強なガルガイド軍によるグリーンバレー攻略と指名手配犯捕獲の目的が頓挫したのだ。
「陛下、今すぐ全軍退却のご命令を!我が軍は総崩れです!」
国王の側近である男が国王に退却を促す。
「口惜しいがやむを得まい!殿は第五軍に任せる!これより我が軍は退却する!」
国王の命令で本軍、第五軍、第六軍総勢15000は退却することに決定した。
しかし後詰めとして来援した第六軍は本陣から離れた場所にグリーン川を隔てて布陣している。
天候悪化による増水で退路を絶たれるのを恐れての判断であった。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.121 )
李信の作戦により、グリーン軍8000はグリムリ山を迂回し、ガルガイド軍本陣がある丘の麓まで進軍していた。
この軍を率いるのはグリーン王国のアティーク将軍である。その中に星屑の姿もあった。
(俺が国王の首を取って恩賞を頂いてやる!)と、星屑は息巻いていた。全軍が緑の甲冑なのに対して星屑は学ランなので一際目立っていた。
アティークが軍の先頭に立って大きく口を開く。
「皆の者良いかぁ!これは王国の威信を賭けた一戦である!敵の首は取らずに討ち捨てろ!目指すはガルガイド国王の首ただ一つ!」
「オォォォ!」という歓声が沸き起こる。
「かかれー!」
アティーク将軍の号令で8000のグリーン軍が国王本陣目掛けて突撃を開始した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.122 )
アティーク将軍の号令一下、8000人のグリーン軍が猛り狂い、ただ王の首を目指して猛然と丘を駆け上がる。アティーク将軍は先頭切ってガルガイド兵を斬り伏せていく。
「敵襲!敵襲ー!」
グリーン軍の奇襲に浮き足立ったガルガイド本軍はまともに応戦も出来ずに突き崩され、丘の中腹まで進撃を許してしまった。
「国王陛下!お逃げ下さい!此処は我らにお任せを!」
ガルガイド国王の近衛隊長が国王に退却を促す。
「おのれグリーン王国!おのれ指名手配犯!この借りは必ず返す!覚えておれ!」
「さあ陛下、この馬にお乗り下さい!お早く!」
「うむ。はぁっ!」
ガルガイド国王は数百人の近衛兵に囲まれ守られながら脱出を図る。
「旗本は是なり!是へかかれ!」
冠を冠った男と近衛兵の一団を視認したアティークが剣先で指して自軍を叱咤する。
王の姿を発見したグリーン軍の将兵は5つある内の4つの柵まで突破してガルガイド国王に追い縋る。
「此処を通すな!死守しろ!国王陛下をお守りするのだ!」
近衛士官の1人が残った兵を叱咤し突撃を命じる。グリーン軍から見てガルガイド国王の姿は見る見る内に小さくなっていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.123 )
「狼煙を上げろ!」
アティーク将軍の命令で兵の一人が手筒から狼煙を空へ打ち上げた。
「狼煙だ!今だやるぞ!」
戦場の後方にあるグリーン川の上流で、グリーン軍に協力する住民達が、密かに築いていた川の流れを堰き止める為の堤を切って落とすと、グリーン川は濁流となって龍の如く暴れ出す。
濁流は第五軍、本軍と第六軍を分断し、前者の退路を絶った。
「よし、民達がやってくれたみたいだな!この機を逃すな!ガルガイド国王を討ち取れ!」
川の氾濫はアティーク将軍からも見て取れた。もはやガルガイド国王の逃げ場は無い。
「川が…そんな馬鹿な…!」
ガルガイド国王も退路を絶たれたことに気付いた。
「もはやこれまで!せめて奴らに一矢報いてくれる!」
腰の剣を抜くと、自らを取り巻いていた近衛兵にも命じて最後の突撃を敢行する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.124 )
「ガルガイド国王、その首貰ったー!」
アティーク将軍を追い越して星屑が飛び出した。
「ザ・ワールド!」
星屑はスタンドのザ・ワールドを呼び出し、時間停止の能力を発動した。星屑は剣を掲げてガルガイド国王の首を一閃した。
「そして時は動き出す。」
時間停止の能力が解除されると、星屑によって胴体から切り離されたガルガイド国王の首が転がり落ち、血飛沫が噴き出した。
「このグリーン軍の星屑がガルガイド国王を討ち取ったぞ!」
星屑がガルガイド国王の髪を掴んで首を掲げると、グリーン軍の歓声が沸き上がった。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.125 )
グリーン軍本陣
「申し上げます!アティーク将軍の部隊がガルガイド国王を討ち取りました!」
伝令が本陣にガルガイド国王の首を挙げた報をもたらしたのはそれから暫く経った頃である。
「オォォォオォォォ!!」
その報にグリーン軍の誰もが沸き返る。李信と小銭にもこの報は伝えられた。
「やったぜ!俺達の勝ちだ!」
小銭が喜びで跳び上がる。
「後は…あのしぶとい女騎士だな。中々粘る。心を折ってやるとしよう。」
李信が馬車から立ち上がる。
「聞けぇ!ガルガイド軍の生き残り共!貴様らの王は討ち取った!」
「なん…ですって…!」
エリスは驚愕した。既に彼女を取り巻く騎士は20人程に減っていた。彼女を囲むように屍は積み重なっていた。彼女自身もマケドニアの大軍と戦い続けて腕や腹部、足に傷を負っていた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.126 )
「あの男は…黒尽くめの…あいつが…あいつが指揮してたのね!絶対に許さない!」
激しい怒りを露わにしたエリスが鬼神の如くマケドニアとグリーンの将兵を切り伏せるが、多勢に無勢であり、今にも力尽きそうな様子であった。
「嘘だろ…国王陛下が…!」
水素と戦闘中だったエイジスにも李信の声ははっきり聞こえた。
「馬鹿のくせにやる時はやるだろ?あいつ。」
そんなエイジスに水素は軽口を叩く。しかしエイジスはそれを無視してエリスの方へ高速で駆け戻る。水素は敢えてそれを見逃した。彼に与えられたのは李信を守れという命だけだからである。
「団長…残念ですが俺達の負けです。此処は逃げましょう!」
「敵を前にして逃げるなんてありえない!そんなの私の騎士道精神が許さない!1人でも多く道連れにして陛下の後を追う!それが騎士としての忠義でしょ!」
エリスは全力で拒否した。その顔は黒尽くめの男とグリーン軍への怒りに満ちている。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.127 )
「小銭、マケドニア軍に攻撃を止めさせろ。」
「何でだよ!」
「俺達は勝った。これ以上被害を無駄に増やすのは無意味だ。」
「分かったよ。クラスカードの能力を解除するぜ。」
李信の指示で小銭はクラスカードの能力を解除し、マケドニア軍は消滅した。次に李信はグリーン軍にも攻撃を止めるよう命令した。
「おい、フェンリル。」
李信が瞬歩を使ってフェンリルとエリスに近づく。それを取り巻く騎士達が剣先を此方に向けてくる。
「さて、戦は俺達が勝った。この場は見逃してやる。さっさと失せろ。」
「貴様ァ!よくも!よくも!」
エリスが取り巻きの騎士を掻き分けて李信に斬りかかろうとするも、エイジスが制止する。
「こいつは俺が倒します。団長は残兵をまとめて逃げて下さい。」
「そんなのお断りよ!」
パシッと乾いた音が鳴る。エイジスがエリスの頬を叩いていた。
「なっ…!貴方自分が何したのか分かってるの!?」
叩かれた頬を手で押さえて激昂する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.128 )
「分かってますよ。俺は上官である貴方に手を挙げました。」
「上官不敬罪よ…!騎士失格ね!」
「ええ。それでいいですよ。後で俺から騎士の位を剥奪してくれても構わない。八つ裂きにしてくれても構わない。拷問にかけてくれても構わない。」
怒るエリスにエイジスは静かに、そして堂々と言い放つ。
「でも俺は貴方に生きてて欲しいんだ!死んで欲しくないんだ!頼む!此処は俺の言う通りにしてくれ!罰は帰ってからいくらでも受ける!この真っ黒野郎を倒して帰ったら!」
突然エイジスは込み上げてきた衝動を全て吐き出す。
「頼む…!此処は引いてくれ…!命を粗末にしないでくれ!」
エイジスが頭を深々と下げて懇願する。
「何で…何で貴方、そこまで私に…!」
「貴方が…好きだからです…!」
「!」
エイジスの思いがけない言葉に驚くエリス。
「分かった。でも逃げるのは貴方も一緒よ。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.129 )
「それは出来ません!こいつを倒さないと王国の平和は守られない!こいつは必ずまた牙を剥いてくる!陛下が身罷られた今、王国を再建するには奴は障害なんです!これは俺の我儘です!一生に一度の俺のお願いを聞いて下さい!」
エイジスは頭を上げずにエリスに訴える。
「上官である私に手を上げたり、告白したり、我儘言ったり…貴方はいつからそんな騎士道精神に外れたみっともない男になったのかしら?」
エリスは涙を浮かべてエイジスの頬を両手で持って、深々と下げていたエイジスの顔を持ち上げた。
「ここまでしたんだから、必ず生きて戻ってきなさいよ!これは上官としての命令よ!この命令だけは絶対に守ってもらうわ!破ったら絶対に許さない!」
「承知致しました!このエイジス、必ずやこの者を討ち果たして戻って参ります!」
エイジスが一礼して李信の方に向き直る。エリスは残兵に退却を呼び掛けてガルドリアを目指して落ち延びていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.130 )
「冗長で安っぽい茶番劇は終わったか?」
李信が冷徹な笑みを浮かべてエイジスを煽る。
「てめえを…倒す!俺には待っている人が居るんだ!」
エイジスが腰の剣を抜く。
「俺はそういうのが嫌いなんだ。虫唾が走る。此処で失せれば見逃してやろうと思ったが気が変わった。お前には借りもある。此処で俺の手で殺してやる。」
李信も腰の斬魄刀を抜く。
「手出し無用だ!こいつとはサシで決着をつける!」
周りに手出し無用と大声で叫ぶと李信は指先に霊圧を込めた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.131 )
「縛道の六十一 六杖光牢」
李信の指先から放たれた光が飛びかかろうとしたエイジスの動きを封じる。
「縛道の六十三 鎖条鎖縛」
更に、光の鎖でエイジスを縛る。
「体が…動かない…!」
エイジスがいくら足掻いても体はビクともしない。
「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり否定し 痺れ瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ」
「破道の九十 黒棺!」
長い詠唱が終わると、エイジスを黒い直方体の霊圧が取り囲む。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.132 )
「この俺が放つ完全詠唱の黒棺だ!貴様如きに争う術は無い!終わりだ!」
しかし黒い直方体は中のエイジスに縛道ごと打ち砕かれた。中から現れたのは大きな狼としたエイジスだった。
「こんなもんかよ、真っ黒野郎。」
狼の姿をして人間の言葉を使うエイジスに、李信は不気味さを感じた。
「完全詠唱の黒棺を受けて無傷とは…」
言いかけたところで、エイジスが強化された脚力で爪を李信に向けながら飛び掛かってくる。
「速い!だが…!」
エイジスの冷気を帯びた爪は確かに李信に届いた。しかし傷はついていない。
「鋼皮(イエ ロ)と言ってな。俺は硬い皮膚で覆われているのだ。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.133 )
李信は左手を顔に翳して虚の仮面を被ると、右腕の強い力でエイジスの頭を掴み、青い霊圧を込める。
「相手の頭を掴んで放つ虚閃(セロ)を掴み虚閃(アガラール・セロ)と言う。その頭ごと消し飛ばしてやる。」
青い虚閃がゼロ距離でエイジスの頭部を直撃した。しかしエイジスは頬に軽い擦り傷を負ったのみだった。今度はエイジスが李信の腕を掴み、動きを封じる。
「エターナルフォースブリザード…!」
エイジスの全身から絶対零度の冷気が発せらた。瞬く間に李信は氷漬けになり、辺り一面は氷に覆われた。
「てめえのような外道は絶対許さねえ…!その汚い口も封じてやる!今すぐに!」
「冷殺剣」
エイジスの剣が凍てつく霊気を帯びる。獣になりながらも武器を巧みに扱う器用さもエイジスにはあった。そして強化した剣を逆手に持つ。
「エイジストラッシュ!」
目にも止まらぬスピードで氷漬けの李信を連続であらゆる方向から斬りつけまくる。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.134 )
しかし李信は氷を破壊して中なら出てくる。だが確かにエイジスの攻撃で体中に傷を負い、血を流していた。
「調子に乗るのもこれまでだ。これを見ろ。」
李信は黒い衣装を胸元まで脱ぐと、胸にある青く輝く宝石のような球状の物体を見せた。李信の傷は見る見る内に塞がっていく。
「これは崩玉という。つい先日俺が取り込んだ。そしてこれは主に対する防衛本能だ。」
李信はそう説明すると衣装を着直す。
「さあ、此処からが本番だフェンリル。貴様に俺が倒せるかな?」
「万象一切灰燼と為せ 流刃若火」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.135 )
李信が斬魄刀を解放すると、刀身に爆炎を帯びた刀が姿を現した。
「貴様は氷属性。そしてこの刀は炎熱系最強の斬魄刀だ。貴様に耐えられるかな?」
「エイジストラッシュ…!」
李信の視界からエイジスの姿が消える。一瞬で李信の背後に回って霊気を帯びた剣で斬りつける。しかし李信もそれを瞬歩で避ける。
「流刃若火一ツ目 撫斬」
高速移動をし続け剣で狙ってくるエイジスの姿を捉えた李信が流刃若火でエイジスを切り裂いた。
「なん…だと…」
しかしそれは残像だった。
「エイジストラッシュ」
エイジスが先程よりも強い威力の高速斬撃をお見舞いした。
「クソッ!」
無数の傷をつけられ、その傷口が凍っていく。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.136 )
「血液を凍らせて俺を死に至らしめるつもりか!だが!」
「再生する暇なんて与えるわけねえだろクソ野郎」
間髪入れずに冷気を帯びた高速斬撃を繰り出し、再生の隙すら与えない。しかし今度はまるで効いていなかった。
「てめえ何をした…!」
「静血装(ブルート・ヴェーネ)。滅却師(クインシー)が持つ血装(ブルート)の一種で己の防御力を飛躍的に高める能力だ。」
そして崩玉による李信に対する防衛本能でエイジスにつけられた傷が塞がり、氷は剥がれる。
「松明」
李信が流刃若火を横に薙ぎ払うと、爆炎が広範囲に発生し更に燃え広がる。だが炎に包まれる前にエイジスは高速移動でそれを避けた。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.137 )
「裏を取ったつもりか?甘い。」
李信は振り向きざまにエイジスと鍔迫り合いになる。炎の刃と氷の刃がぶつかり合う。
「流刃若火の炎を受けて消えない冷気とは大したものだ。だが…松明」
流刃若火の刀身から爆炎が一瞬で広がり、エイジスを包み込む。
しかしエイジスが咆哮すると爆炎は冷気で消し飛ぶ。咆哮の効果で流刃若火は凍りつく。
「虚閃(セロ)」
李信が左手の掌から青い虚閃を発射するが、エイジスの咆哮は虚閃をも掻き消す。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.138 )
李信の体も咆哮により下半身が凍りつく。
「これ程とは…だが!」
「動血装(ブルート・アルテリエ)」
「これは攻撃能力を飛躍的に高める血装(ブルート)だ。」
流刃若火が氷を破って爆炎を噴き出す。炎の熱で体の氷も一瞬で溶ける。
「撫斬」
李信が咆哮を続けるエイジスの体を爆炎を帯びた斬撃で一閃した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.139 )
「手応えあり!今度は残像では無いようだな!」
撫切で一閃されたエイジスの胴体は真っ二つに割れた。体の切断面から大量の血が噴き出す。
「鬼火」
更に流刃若火から火球が飛ばされ、エイジスの上半身に穴を開けた。
「喉を潰した。もう喧しい鳴き声は出せない。」
「虚閃(セロ)」
下半身と切り離された頭がつき、穴が空いている上半身に虚閃を撃ち込む。青い光線がエイジスを呑み込んだ。
「終わったな。」
だが終わったと感じたのは束の間だった。背後に冷気と殺気を感じたのである。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.140 )
「!」
狼から狼の獣人の姿に変化したエイジスが背後に周り、弓矢をつがえていたのである。
「冷凍の矢(フリージングアロー)」
「静血装(ブルート・ヴェーネ)」
魔力を帯びた氷の矢を放ち、矢は血装を貫通して李信の肩に刺さる。
「馬鹿なっ!何故!手応えはあった!残像ではなかった筈だ!」
李信の肩に刺さった矢が冷気を発して徐々に内側から凍結されていく。
「狼から獣人に変化した時にダメージを負った体から意識を持って分裂したんだ。一度しか使えないがな。そしてその矢はお前の体内から凍てつかせる。とどめだ。」
「ファフニール」
冷気と魔力の光の柱がエイジスを覆うと、北欧神話に伝わる巨大な蛇龍が姿を現した。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.141 )
狼の時よりも大きな咆哮が轟き、蛇龍と化したエイジスの魔力が急激に上昇する。そして蛇龍は舞い上がる。
「無想・樹海浸殺」
蛇龍の姿となりテレパシーのようなもので相手に言葉を伝える。蛇龍が空から急降下し、凍土と化している地面を腕で叩く。
無数の蔦が凍土を破って現れ、李信を球状に取り囲む。
「悍ましい量の魔力量…!これが最強騎士・フェンリルの力…!俺は甘く見ていた!この底知れぬ力は何だ!この俺が…ここまで…!」
李信を取り囲んだ蔦から無数の枝が生え、枝は体の内側から凍らされつつある李信の全身を突き刺した。枝を伝って蔦から李信の血が流れ出している。
「終わった。あれを喰らって生きていた奴に俺は会ったことがない。帰ろう、待っている人の所へ。」
エイジスの脳裏に自分の帰りを待つ人々の顔が思い浮かぶ。エリス、リーナ、咲…戦自体に負けはしたが、国王の仇を討って堂々と凱旋出来る。
そのことで胸が一杯になった時である。
「それが…貴様の全力か?」
李信の声が聞こえる。禁忌とされている必殺奥義まで使って倒した相手の声が。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.142 )
無数の蔦と枝が炎で焼けて灰になる。中からは倒した筈の李信が今までにない霊圧を纏って現れた。傷も塞がっている。崩玉の効果であろう。
「この俺をここまで追い詰めたその実力…やはりフェンリルの名は伊達ではないようだな。だが、俺の力はまだまだこんなものではないぞ!」
「まだ生きてやがったのか!しぶと過ぎる!お前は一体何なんだ!」
「最強の霊圧をもってして生まれ変わった絶対の存在、それが俺だ!」
爆発させた霊圧を一気に流刃若火に流す。
「 卍 解 」
霊圧と炎の巨大な火柱が発生し、近くに居るだけのエイジスにとてつもない熱気を発する。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.143 )
「残火の太刀」
始解時の爆炎が消え、焼け焦げたような斬魄刀が出現する。
「そんなものがお前の本気か!?」とあまりにもみすぼらしい刀を前にエイジスをその刀を嘲笑する。
「残火の太刀は始解である流刃若火の炎を全て刀身に凝縮した最強の卍解だ。お前の攻撃も、防御も、俺には通用しない。」
「ならそれが本当か試してやる。氷神の息吹(ブリザードフォース・ディバイン・バースト)」
エイジスの口腔に巨大な冷気の魔力が集まり、それが極太のビームとなって放出される。
「残火の太刀 西 残日獄衣」
李信の全身を炎の衣が包み込む。エイジスの攻撃は炎の衣に直撃すると一瞬で蒸発した。エイジスによって作られた辺りの凍土も同様に蒸発し消え失せる。
「この残日獄衣は太陽の中心に等しい1500万度の炎熱の衣。触れるどころか近づく者さえ消滅させる。」
エイジスは辺りが異常に熱いことに気づく。蛇龍となった体の隅々から滝の様な汗が流れ出ていた。
「だがこの残日獄衣を前に息をしていることは認めよう。普通ならば骨や灰すら残らない。」
「無想・氷樹海浸殺」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.144 )
「残火の太刀 東 旭日刃」
次々と自分に向かって生えてくる氷に覆われた樹木や枝を李信が残火の太刀で切り付けると、灰となって崩れ落ち消滅した。
「この旭日刃は斬りつけた対象を消滅させる。貴様の攻撃など通用しないと言った筈だ。」
「俺の…禁忌にまでされている奥義が…!」
「確かに大したものだが貴様は俺に勝てはしない。熱と氷では天地の差がある。氷の温度は下限があるが熱にはそれがない。この勝負、最初から決していたのだ。」
「残火の太刀 南 火火十万億死大葬陣」
李信の周りを数体の骸が取り囲む。
「これは…!」
エイジスを目指して骸達は歩き始める。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.145 )
「俺が今までに葬った者の骸だ。と言ってもまだ5人しか居ないがな。」
一体はグリーン王国に来る途中で倒した性犯罪者、もう四体はみさくらを倒しに行く時に鬼道で葬った雑魚怪人である。
「アッ…アノコ…アノコォォォ!!!」
骸の1人がエイジスに飛びかかる。
「きもちわりいんだよ!」
エイジスの氷の息吹で骸達は氷漬けにされ、砕かれた。
「こんなもんかよ。お前の卍解とやらの力は。」
「この気温の中で氷の息吹を吐けるなどありえない筈だ。俺も頭は悪いが冷気に限界があることくらいは分かる。」
李信はあっさりと破られた 南 の力を見て確信した。
「お前の冷気や氷は膨大な魔力により気温すら超越し、俺の炎熱に対抗してきた。でなければ流刃若炎を解放中でお前は冷気や氷を出せるわけがない。だが!」
「だが、何だって言うんだ?」
「俺の旭日刃と残日獄衣の前では貴様は無力!そろそろ終わりにしよう、この戦いを!貴様の死をもってな!」
残火の太刀を下段に構えて踏み込み、瞬歩でエイジスの目の前に迫る。
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.146 )
「コキュートス」
蛇龍エイジスの口腔と全身から青紫の魔力と冷気が周囲広範囲に噴き出される。滝の様に流れていた汗も冷気に変わる。李信の旭日刃と冷気の霧がぶつかり合い、激しい蒸発音がお互いの耳をつく。
「旭日刃に消し飛ばせないものなどない!」
しかし残火の太刀はエイジスの冷気によって徐々に刀身の先から凍りついていく。
「流刃若火の爆炎を刀身に固めた旭日刃を凍らせ、更に残日獄衣を纏った俺に接近されても死なないその肉体と冷気…ここまでの力があるとは流石に思っていなかったぞ…。」
「このコキュートスは絶対零度を遥かに下回る冷気で広範囲を襲う俺の最終奥義だ。見ろ、お前の残日獄衣とやらの力も虚しく俺の冷気により周りを氷の世界に変えてやったぞ。」
ハッと李信が辺りを見回すと一面見渡す限りが氷の世界と化していた。
「外道なお前の力など、全て俺の力で凍らせる。俺はお前を倒して故郷に帰らねばならない!」
エイジスが口から氷の息吹を吐く。李信は瞬歩で右横に避ける。
「と言っても、俺も魔力を使い過ぎた。お互い、そう余力は残ってないようだな。」
「ああ、次の一撃でケリをつける。」
Re: 「Re:じゃないけど始めるポケガイ民の二次元生活」( No.147 )
李信が左目の眼帯を外すと一気に霊圧が数倍に跳ね上がり、残火の太刀についていた氷が蒸発する。青い霊圧は残火の太刀と合わさり赤色に変わり、周囲の全ての氷を消滅させた。
「てめえ、まだ奥の手を残してやがったのか!」
「ああ、貴様を殺す為に温存していた。この眼帯を外せば抑えていた霊圧が解かれ、その力は何倍にも上昇する。終わりにするぞフェンリル。俺と貴様の因縁に決着をつける。」
地中の奥深くすら太陽の中心と同じ温度の核と化すかのような、天すら圧する霊圧と熱を放つ李信は、残火の太刀を両手で持ち、上段に構える。
「俺は負けるわけにはいかない!王国の為、騎士としての誇りの為、愛する人の為、俺のもてる全ての力でてめえを倒す!」
「ユニコーン」
エイジスの姿が蛇龍から大きな角を持った白馬に変化する。